命がけの6日間――戦場からの脱出作戦【現場ルポ】 戦火のウクライナ、広がる兵役逃れの実態

DRAFT DODGING PLAGUES UKRAINE

2025年2月25日(火)10時34分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

マキシムが日記に書いた「汚職」や「腐敗」が、ゆがんだ動員活動と相まって氷山の一角のように表面化した。深刻なのは、重要案件が密室で処理されるこの国の危うさだ。

ソ連時代の秘密警察KGBの後継組織であるSBUは何でもできると、多くの国民が再確認したことだろう。違法な越境や脱営について証言し、それが報道されると担当記者が拘束され、証言者も特定されてしまう。そんな懸念が蔓延していることは想像に難くない。


ボクダンやマキシムが越境の拠点にしたヤレムチェは今、徴兵の重点地域になっている。地元の保養所に勤めるある男性は車の運転中に検問所でいきなり招集令状を渡された。

そして、送り込まれた軍の訓練施設でいじめに遭った。敬虔なクリスチャンの彼が「武器を持ちたくない」と信念を語ったからだ。その後、寒風吹き付けるテントで寝泊まりさせられ、深刻な腹膜炎を発症した。

政府が号令をかけた動員は計画どおりに進んでいない。ゼレンスキー大統領は2月上旬、徴兵が免除されている18~24歳の若者を対象に新たな入隊システムを発表した。高額の給与、1年間限定の契約、教育の無償化や優先的住宅ローンなどの優遇措置で入隊者を増やすという。

夫の古傷が重大な障害と認められ、22年に国外に脱出した20代のカップルがいた。開戦3年を前に今後の計画を聞いたところ、こんな返事が届いた。

「ウクライナに未来を見いだせないので、こちらにとどまりたい。政府が『自由を求め、欧州に向かって進んでいる』といくら言っても、信用できないからだ」

PHOTOGRAPHS BY TAKASHI OZAKI

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