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安全保障

プーチンの後退は欧州の勝利にあらず

PUTIN’S SETBACKS ARE COLD COMFORT FOR EUROPE

2025年1月6日(月)12時05分
ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)

プーチンの戦略的損失はトランプと「ディール(取引)」を結んでも完全には補えない。例えばトランプは、ロシアにウクライナで面目を保てる「一応の」勝利を挙げさせる代わりに、イランの核開発計画阻止を支持させるという大取引を仕掛けるかもしれない。あるいはトランプの返り咲きは、イスラエルにとってイランの核施設攻撃へのゴーサインを意味することも考えられる。

これらのシナリオは、グローバルな影響力を追求するプーチンの夢を打ち砕く。中東と世界におけるロシアの役割を根本的に変えるからだ。


オバマ元米大統領はロシアを「大国」ではなく「地域大国」と切り捨てるように表現したが、その認識が裏付けられることになる。まだロシアには中国という強力なパートナーがいるものの、中国はロシアの重要性を大幅に小さく考えるようになった。

だがトランプがウクライナに対して停戦と領土割譲で譲歩を迫り、プーチンの言いなりになる可能性もある。そうなれば、欧州の安全保障構造はさらに変化する。

NATOは存続するだろうが、トランプが米大統領である限り、その存在意義は大いに疑問視される。その場合、欧州の安全保障はウクライナの安全保障に懸かってくる。欧州の繁栄と安定は脆弱な停戦合意に左右されることになるが、それはロシアの複合的な「ハイブリッド戦争」の絶え間ない脅威には全く歯が立たないだろう。

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