最新記事
シリア

内戦勃発から13年...シリア政権スピード崩壊の背景に「独裁者アサドの猜疑心」

FIGHTING THE WRONG WAR

2024年12月18日(水)15時08分
ベンジャミン・バイマン(K2インテグリティ アソシエート)

newsweekjp20241217024349-fbddcd153f0b84469cc30290130305ebd55bd44e.jpg

引き倒されたハフェズ・アサド像 MURAT SENGULーANADOLU/GETTY IMAGES

内戦勃発後にバシャル・アサドが反政府派を抑え込めなかった理由はほかにもある。

各軍の情報機関の管轄が重複し、情報が共有されず、市街戦の訓練が不十分だったことなどだ。

アサドは長年にわたり自分の属するイスラム教アラウィ派の兵士を優先的に上位の階級に昇進させてきた。そのため政府軍の多数を占めるイスラム教スンニ派の兵士の間では不満がくすぶっていた。

中東全域を揺るがした民主化運動「アラブの春」がシリア各地に広がったとき、アサドが真っ先に心配したのは、デモ参加者の声を聞いて兵士がそちらになびくことだ。そうなればデモの鎮圧どころではなくなる。


そのため特に忠誠心が疑われる部隊には外出禁止令を出し、兵士が市民と接触しないようにした。加えて少しでも反抗的な態度が見られた兵士や将官は片っ端から拘束し、拷問するか銃殺刑に処した。

こうした荒っぽい統制により内戦初期には兵士の大量脱走を防げたが、戦闘の最中に個々の兵士、あるいは小隊が丸ごと戦線離脱するケースが相次いだ。

兵士たちが非武装のデモ参加者に容赦なく銃口を向けるよう、軍上層部はユニークな策略を編み出した。

デモ隊と対峙する政府軍部隊の後方に狙撃兵を配置し、市民を銃撃することをためらう兵士がいたら即座に銃殺し、見せしめにするのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中