最新記事
旧ソ連圏

西側と中ロの狭間で迷えるジョージア...10月議会選は「戦争か平和か」を選ぶ、「最後のチャンス」に?

THE WEST IS LOSING ANOTHER COUNTRY

2024年10月3日(木)16時08分
マシュー・トステビン(本誌シニアエディター)
「外国の影響」法案に抗議してトビリシの国会議事堂前に集まった人々

「外国の影響」法案に抗議して国会議事堂前に集まった人々(4月15日、トビリシ) NICOLO VINCENZO MALVESTUTO/GETTY IMAGES

<世論はEUとNATO加盟を望んでいるが、与党「ジョージアの夢」は中国・ロシアの強権体制に親和性。この国の行方を決める議会選が近づいているが──>

旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)。この国を訪れた人が真っ先に気付くのは青地に金色の星が輝く旗、そうEU旗だ。ジョージアの首都トビリシの官庁街に立ち並ぶビルから地方の小さな警察署まで、この旗が国中にはためいている。白地に赤い聖ゲオルギウス十字をあしらった国旗と並んで......。

その光景は西側に向けた熱いラブコールのようにも見える。実際、国民の圧倒的多数はEUとNATO加盟を支持している。それなのに、この国の現政権は西側に背を向けようとしている。代わって大きな影響力を持ち始めたのがウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアだ。


プーチンの思惑とは裏腹に、ロシアのウクライナ侵攻は民主主義陣営の結束固めに役立ったと、西側は主張する。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟がその証拠だ、と。

だが、かつては西側入りを切望していたジョージアはそれとは逆の方向に進みつつあるようだ。

ジョージアの人口は約370万人。アメリカのジョージア州の人口の3分の1にすぎない。今の米外交の焦点はウクライナと中東で、ジョージアをはじめカフカス地方の国々の優先度は低い。

だがカフカスの戦略的な重要性は看過できない。北はロシア南部、南はイラン北部と境を接し、カスピ海産の石油や天然ガスを西側諸国に運ぶ通り道にもなっている。

冷戦終結後に、アメリカは唯一の覇権国となった。その状況が崩れた今、世界の多くの国々はどの陣営に付くべきか様子見を続けている。西側とジョージアの今後の関係は、これらの国々にとって重要な判断材料になる。

西側寄りのジョージアの野党によると、ロシアはこの国を支配下に入れようと盛んに情報戦を仕掛けている。今月26日実施の議会選挙はそれに抵抗する最後のチャンスかもしれない──野党はそうにらんでいる。

「私たちは旧ソ連の一部だったから、(ロシアの支配下に置かれたら)どうなるか身をもって知っている」と、野党政治家のグリゴル・ワシュゼは本誌に語った。「今度の選挙はジョージアの命運を決める地政学的な選挙になる」

西側はこの国の政権与党「ジョージアの夢」が強権支配に傾きつつあることに警戒感を募らせている。ジョージアの夢は今年5月、野党の反対を押し切って外国の影響下にある個人や団体を規制するロシア式の法案を可決させた

政府と与党は「ジョージアの主権を守るための法律だ」と強弁するが、活動家やメディアの弾圧に利用されかねないと、多くの市民が抗議の声を上げている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

FRB議長候補、ハセット・ウォーシュ・ウォーラーの

ワールド

アングル:雇用激減するメキシコ国境の町、トランプ関

ビジネス

米国株式市場=小幅安、景気先行き懸念が重し 利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドル対主要通貨で下落、軟調な雇用統計
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 5
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 6
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 7
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 8
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 9
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 10
    ハイカーグループに向かってクマ猛ダッシュ、砂塵舞…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 6
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 7
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中