EV大国中国の試練...販売減速と欧米規制の中で「生き残りのカギ」とは?

HERE COME THE CHINESE EVS

2024年7月16日(火)13時40分
湯進(タン・ジン、みずほ銀行ビジネスソリューション部上席主任研究員)

newsweekjp_20240711044924.jpg

山東省の港で海外輸出用の車を積み込むBYD の運搬船エクスプローラーNO.1(今年1月) COSTFOTOーNURPHOTOーREUTERS

中国は09年からアメリカを抜き、世界最大の新車市場の地位を固めているものの、エンジン車技術および基幹部品技術の遅れにより、グローバル市場で日米欧に追い付くには依然遠い道のりがあった。また、高い石油輸入依存度や深刻化する大気汚染という事情もあり、中国政府は部品点数の少ないNEVへのシフトに舵を切ったのである。「Well-to-Wheel(油井から車輪まで)」の視点から見て、NEVは本質的な意味においてゼロエミッションカーではないものの、産業発展やエネルギー安全保障戦略から中国はNEVシフトを決意した。

中国政府は09年に「十城千輌プロジェクト」を打ち出し、主要都市で公共バスやタクシーなどの電動化を推進して、10年には個人向けのNEV補助金制度も開始した。12年に発表された「省エネ・NEV産業発展計画」(12~20年)が、国策として自動車産業のNEVシフトの幕開けとなった。そして中国政府は市場形成に向けて、需要サイドと供給サイドの政策を同時に推進してきた。

需要サイドの政策には、13年に始めたNEV補助金制度がある。国の補助金制度に合わせ、地方政府もメーカーに対し補助金を別途支給する形でNEV事業の支援を実施。国の補助金の累計額は10~22年に1500億元(約3兆円)にも上った。中央政府は車両購入税の免除(車両価格の10%相当)、充電スタンドの整備に伴う補助を行い、一部の地方政府は交通規制の対象外となるEV専用ナンバープレートを配布した。

供給サイドの政策では、18年に「ダブルクレジット規制」を導入した。罰則付きの規制によって、自動車メーカーに燃費の改善とEV生産の拡大を促した。こうした政策に突き動かされる形で、地場メーカーは相次いでEV生産に乗り出し、中国のEV販売台数は18年に100万台を超えた。だが、政策支援の限界もあり、その後は伸び悩んでいた。

newsweekjp_20240711051116.png

中国EVといっても20年以前は、配車サービスやタクシーなど営業車向けのエンジン車モデルを電動化しただけの車が大半だった。充電インフラの未整備、低品質の電池といった課題があり、一般の消費者には普及していなかった。

しかし、21年に市場トレンドが変わった。米テスラが上海で生産し始めた「モデル3」が世界的な人気を博し、上海蔚来汽車(NIO)、小鵬汽車(Xpeng)、理想汽車(Li Auto)などの新興勢が追随し、中国では中大型・高級EVブームが起きた。ソフトウエアと通信技術を活用し、自動運転補助や娯楽などの機能が組み込まれたスマートカーは、特に富裕層から人気を集めた。所得水準が高い大都市が高級EVの主なマーケットだった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化

ワールド

米国のウクライナ「安全保証」近く決定、26カ国が部

ワールド

ガザ市で退去命令に応じない住民が孤立 イスラエル軍
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 3
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 6
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 7
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 8
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 9
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 10
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中