最新記事
プロジェクト2025

ハンガリーの強権首相オルバンを「模範」と崇めるトランプ主義者のトンデモ構想

Project 2025 leader working to implement policies of Putin ally: Professor

2024年7月9日(火)17時31分
フリン・ニコルズ
プーチン大統領とオルバン首相

NATOとEUの加盟国でありながらプーチンと緊密なハンガリーのオルバン首相(左)(7月5日、クレムリンで)  Sputnik/Valeriy Sharifulin/Pool via REUTERS

<トランプ再選を前提に大統領権限の拡大と官僚大量解雇の政権運営構想「プロジェクト2025」を作成したヘリテージ財団が、オルバン首相に「トランプ主義を制度化」するための教えを乞うている?>

米保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のケビン・ロバーツ会長が、ハンガリーの保守派首相オルバン・ビクトルの強権的支配を取り入れて、「トランプ主義の制度化」に役立てようとしている、という批判が大きくなっている。

【動画】プロジェクト2025のブレーンたちと、トランプの言い分

ロバーツは、7月1日に大統領の幅広い免責特権を認めた米連邦最高裁の判断を称賛して大きな注目を集めた。彼は同判断を受けて、アメリカは今や「エリート」や「専制的な官僚」に対抗する「第二次独立戦争」の只中にいる、と述べた。

ヘリテージ財団は、2024年の米大統領選挙で共和党候補が勝利した場合の政権運営構想「プロジェクト2025」を作成した。トランプ再選を前提に大統領権限を拡大し、「ディープステート(闇の政府)」に操られている連邦政府の官僚を大量解雇する──トランプ自身も選挙公約に謳い、多くの保守派も続々と支持を表明した考えだ。

リベラル派の専門家の間ではロバーツに対する批判の声が高まっている。米ボストン・カレッジのヘザー・コックス・リチャードソン教授(歴史学)は、コンテンツ配信プラットフォーム「サブスタック」上で公開しているブログ「レターズ・フロム・アン・アメリカン」の中で、ロバーツはオルバン政権と緊密に連携していると主張した。

オルバンはハンガリーの強権的な指導者であり、NATOおよびEU内でロシアのウラジーミル・プーチン大統領と最も親密な関係にあることで知られている。

オルバンはトランプそっくり

オルバンは、西側の民主主義の概念を覆して「非自由主義的な民主主義」あるいは「キリスト教民主主義」と称するものに置き換えることを公然と表明していると、リチャードソンは説明する。一方ロバーツは、国連やNATOなどの国際機関から距離を置くために連邦政府の大部分を分権化または民営化して「トランプ主義を制度化」することを目指しており、以下のようにオルバンの政策と通じるところがあると指摘した。

オルバンは反移民を掲げるEU懐疑派で、ロシア寄りの姿勢で知られる。ドナルド・トランプ前米大統領が選挙キャンペーンの中でナチスを想起させる動画で批判を浴びたのと同様に彼もまた、ハンガリー出身のユダヤ系富豪であるジョージ・ソロスについて「世界の左派を操る黒幕」だと主張している。

オルバン率いる政党「フィデス・ハンガリー市民連盟」は2022年の議会選挙で、ハンガリー、EUとNATOはロシアとウクライナの戦争に関与すべきではないという政策を掲げて圧勝し、オルバンは4期目の首相の座に就いた。

オルバンはある意味「トランプ主義」の先輩だ。外部有識者によれば、2022年にハンガリーで実施された議会選挙は「不公正な環境のせいで台無しにされた」。各種政府機関とオルバン率いる与党が癒着し、メディアの所有構造や投票制度も与党に有利だったという。そのために6月には、オルバンの政策や反体制派の抑圧に対する数万人規模の抗議デモが展開された。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中