最新記事
中東

「サウジアラビア v アラブ首長国連邦」中東地域の主導権をめぐる静かなる地政学争い

A HIDDEN RIVALRY

2024年6月19日(水)13時12分
アラシュ・レイシネズハド(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス中東センター)、ムスタファ・ブーシェフリ(コロンビア大学グローバルエネルギー政策センター)

最も重要な競争は、それぞれの国が追求する「ビジョン」戦略に関連するものだ。UAEは10年に国家開発計画「ビジョン2021」を掲げ、多角化を進めてきた。

ハリファ港とジュベル・アリ港を軸とする戦略的イニシアチブを通じて世界的な交通とビジネスのハブとしての地位を獲得し、国営航空会社エミレーツ航空の成功がそれを支えている。

一方、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマンも16年に、経済多角化の野心的なロードマップ「ビジョン2030」を打ち出した。

目玉は紅海沿岸の砂漠地帯に建設する未来都市「NEOM」構想で、地域で傑出したインフラ、交通、テクノロジー、ビジネス、金融のハブを目指す数千億ドル規模の取り組みだ。

サウジアラビアはさらに、23年に政府系ファンドが100%出資するリヤド航空を設立(就航は25年の予定)するなど、海と空の物流のハブに変貌するために1000億ドル以上を投じている。

なかでも、中東・北アフリカ地域で最大規模かつ最も交通量の多い港湾になるとされるジッダ・イスラミック港への巨額の投資を通じ、港湾におけるUAEの優位に挑戦しようとしている。

興味深いことに、イランとの関係改善が、一連の競争を激化させるかもしれない。中国の主導によるイランとサウジアラビアの和解は、サウジアラビアとUAEが地域で共有する主要な脅威を効果的に排除し、ペルシャ湾北部と南部の長年にわたる地政学的対立を緩和した。

この地域は今後、イランとGCCの地政学的競争から、サウジアラビアとUAEの地理経済的競争に焦点が移って新しい時代を迎えるかもしれない。

通商政策では、サウジアラビアが21年7月に、国内の工業生産を強化するために保護主義的な政策を導入。外資奨励のために優遇措置が取られているフリーゾーンで製造された製品やイスラエルからの輸入品を使った製品を、特恵関税の対象外とした。

こうした規制はUAE経済の根幹をなすフリーゾーンに真っ向から挑戦するもので、UAEとイスラエルの貿易関係が発展することに対する明確な反論である。

アメリカの中東政策に打撃

その対イスラエル政策でも、両国の距離が開く可能性がある。UAEは20年にアメリカの仲介でアブラハム合意に署名し、イスラエルと国交正常化を果たしたが、サウジアラビアは署名を見送った。イスラエルとUAEは包括的な経済協定を結ぶなど、2国間関係を強化している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利0.75%で維持 原油高の基調物価へ

ビジネス

焦点:日銀正常化にハードル、高市政権内に慎重論 今

ワールド

バチカン枢機卿、米・イスラエルに停戦求める 異例の

ワールド

イランガス田はイスラエルが攻撃、米・カタール関与せ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 3
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 8
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 9
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 10
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中