最新記事
インド

「インドの民主主義は死んでいない」モディとBJP一強時代の終わり、圧倒的なリーダーの存在がアキレス腱に

Modi's Power Has Peaked

2024年6月11日(火)14時45分
デベシュ・カプール(ジョンズ・ホプキンズ大学教授)
モディ時代の終わりの始まり

モディは勝利宣言をしたが、単独過半数はならず、野党の躍進を許すことに SANCHIT KHANNAーHINDUSTAN TIMESーSIPA USAーREUTERS

<総選挙の結果は予想どおりBJPの勝利となったが、今後その勢いが下降線をたどるのは確実だ。BJP政権が長期化するほど、党内で自滅の種が芽を吹き始めた>

4月から1カ月半がかりで実施されてきたインド総選挙で、インド人民党(BJP)が勝利を収め、ナレンドラ・モディ首相が3期目を務めることがほぼ確実になった。現代インドの首相としては2人目の長期政権だ。

とはいえ、BJPはかなりの議席を失い、単独過半数は確保できなかった。このためモディは初めて連立を組み、連立相手に配慮した政権運営を迫られることになる。

それはインド議会で10年に及んだBJP一強時代が終わっただけでなく、BJPの勢いがピークを越えたことを意味する。1980年代後半以降のインド政治の特徴だった連立政権が戻ってくるのだ。

BJPが10年にわたりインド政治を牛耳ることができた理由はいくつかある。まず、モディというまれに見るカリスマ的なリーダーの存在。モディはその抜群のコミュニケーション能力により、有権者の心をがっちりつかんだ。

さらにヒンドゥー至上主義や、特に女性や貧困層をターゲットにした福祉政策、そしてパワフルな組織力が得票につながった。また、モディの闇の政治力と、まとまりを欠いた野党、そして莫大な選挙資金も長期にわたる一党支配に貢献した。

そんなBJPの圧倒的な覇権は、今後も長く続くかに見えた。だが、頂点の先にあるのは下降しかない。もちろん、BJPはまだしばらくは頂点付近にとどまるかもしれない。だが、その下降はもはや「起きるかどうか」ではなく、「いつになるか」の問題だ。

複数の政党が激しい競争を繰り広げるのは、民主主義政治の特徴の1つ。ところが実際には、驚くほど多くの国で1つの政党が長期にわたり政権を担ってきた。

日本の自由民主党やイタリアのキリスト教民主党、メキシコの制度的革命党(PRI)、ボツワナの民主党がいい例だろう。独立直後のインドの場合、国民会議派がそれだった。

これら支配的な政党は、権力を握っているときは無敵に見えるが、転落するときは、実にあっけなく転落する。経済発展や技術の進歩により、従来の経済構造や社会集団の力関係が変わったことがきっかけになることもある。

インドの場合、緑の革命(農業技術革新)により、国民会議派に長年無視されてきた中位カーストの農民が豊かになり、政治的発言力を強めた。その結果、人口の多い北インドで、国民会議派は相次ぎ敗北を喫するようになった。

製造業からサービス業へのシフトと、それに伴う労働組合の衰退も、それまで支配的だった中道左派政党の支持基盤を揺さぶった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

ブラックストーンとTPG、診断機器ホロジック買収に

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

タイ、通貨バーツ高で輸出・観光に逆風の恐れ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中