最新記事
ウクライナ戦争

欧米が抱える弾薬生産の課題とウクライナ支援の行方...足りない砲弾、兵力補充

Can Ukraine Hold?

2024年5月8日(水)14時10分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)

「ウクライナ側は今後12カ月間で、月に7万5000~8万5000発を発射できるだろう。1日2400~2500発の計算になる」と、英国際戦略研究所のフランツシュテファン・ガディは言う。

ガディによれば、これはウクライナがロシア軍との防衛戦を維持するために必要な最低限の量だ。「今年は攻撃作戦を行う余裕はない」

共和党のJ・D・バンス上院議員は4月にニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、そもそもアメリカには「ウクライナが戦争に勝つために必要な量の兵器を製造できる生産能力がない」と主張した。ウクライナ支援に批判的な米議員は今後もその主張を強めるだろう。

一方、ロシアは今年中に350万発の砲弾を製造できる見込みだ。生産能力を一気に増強し、年末には450万発に届くという分析もある。

ただし、ロシアの生産能力は上限に達しつつあるのではないかともいわれている。兵器工場は既に24時間体制で、ロシアが必要とする砲弾を生産するためには工場を新たに建設しなければならないだろうと、ヨーロッパの当局者はみている。ロシアは北朝鮮やイランからも調達しているが、古すぎて誤射を招きかねない砲弾も含まれている。

来年の初めまでに欧米の兵器工場でかなりの量の砲弾を生産できるようになり、ウクライナ軍が再び前線で戦えるようになるだろうと期待されている。現在は弾薬不足を補うために、ゴーグルや画面を通してドローン(無人機)の目線で操縦する一人称視点(FPV)のドローンを投入しているが、妨害装置で破壊される可能性があり、夜間は飛行できない。

ウクライナは高性能の榴弾砲をより多く手に入れて、数の劣位を打ち消そうとしている。榴弾砲は全長約960キロにわたる前線でロシアの攻撃を食い止めるために重要な防衛兵器ともいわれている。

頼みの綱はクラスター弾

「ウクライナは基本的に、今年は防衛に全力を注いでいる」と、ある議員補佐官は戦場の状況について匿名を条件に語った。「クラスター弾は......彼らが部隊を集結させようとしている今、トップ5に入る強力な防衛兵器だ」

なかでもDPICM(二重用途改良型通常弾)は通常の砲弾の約4~5倍の殺傷力があると、この議員補佐官は言う。米軍には冷戦時代から引き継いだ約300万発の備蓄がある。バイデン政権はさらに5億ドル相当のDPICMをウクライナに供与する権限を持っており、近く供与が承認される見込みだ。

ただし、DPICMは「不発」になる確率が高い。発射されたときに必ず爆発するとは限らず、取り残された不発弾はしばしば民間人の命を奪うことになる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米アマゾン、今年は「プライムデー」を4日間に拡大 

ビジネス

世界の中銀、金の保有比率増加を予想 ドルの比率減少

ビジネス

需給ギャップ、25年1―3月期は1兆円不足=内閣府

ビジネス

午後3時のドルは144円半ば、日銀会合は想定内で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中