最新記事
中国の対欧州外交

習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

2024年5月7日(火)16時34分
シャノン・ティエジー(ディプロマット誌編集長)
習近平に5年ぶりのヨーロッパの風は冷たく

昨年4月に中国を訪問して首脳会談を行ったマクロン(左)と習 LUDOVIC MARINーPOOLーREUTERS

<中国と欧州の関係悪化の最大の要因は、ロシアのウクライナ侵攻。欧米の企業がロシア市場から手を引くなかで、中国は穴を埋めるように取引。欧州諸国の中国に対する姿勢も様変わりだ>

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が5月5~10日にかけて、フランス、セルビア、ハンガリーの欧州3カ国を歴訪している。コロナ前の2019年3月以来の欧州訪問だが、この5年間に世界は大きく変わり、ヨーロッパ諸国の中国に対する姿勢も様変わりした。

習が前回のヨーロッパ訪問で達成した最も際立った成果は、イタリアがG7諸国で初めて中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に参加したことだった。しかし、イタリアは昨年12月、触れ込みどおりの経済的な恩恵が得られていないことを理由に、一帯一路から離脱した。

地政学的・経済的対立の激化に伴い、ヨーロッパ諸国の対中感情は悪化している。中国とEUは20年12月、包括的投資協定の締結で大筋合意に達したが、この協定は発効していない。

21年5月に欧州議会が協定の批准に向けた審議を凍結したためだ。これは、新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐるEUの対中制裁に対して中国が報復措置を取ったことを受けた対応だった。この一件以降、経済分野での中国とヨーロッパの緊張は高まるばかりだ。

それまで経済が中国とヨーロッパを結び付ける接着剤になっていたが、状況は変わった。EUは、中国からヨーロッパへの投資を厳しい目で精査するようになっている。

もっとも、中国とヨーロッパの関係を悪化させている最大の要因は、22年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻である。中国はこの戦争で中立の立場を表明しているが、ロシアとの間で高官レベルのやりとりを続けていることを考えると、中国政府がどちらに肩入れしているかは明白だ。

加えて、ウクライナ侵攻を受けて欧米などの企業がロシア市場から手を引くなかで、中国はその空白に付け込もうとしている。ロシアからのエネルギー輸入を増やしたり、民生用と軍事用の両方に用いることのできる製品をロシアに積極的に輸出したりし始めているのだ。

ウクライナ問題は、習の欧州歴訪、とりわけフランス訪問の際に大きなテーマになるだろう。

フランスでは、中国とEUの間のさまざまな懸案について厳しい話し合いが行われる可能性が高い。それに対して、フランス訪問の後は、中国に対してまだ比較的好意的な国であるセルビアとハンガリーへの訪問が待っている。

セルビアおよびハンガリーとの間では、中国からの「ご褒美」として投資の約束やそのほかの合意が結ばれることになるだろう。しかし、フランスで大きな成果があると予想する人はほとんどいない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=反落、ダウ349ドル安 エヌビディア

ワールド

加アルバータ州、日本の石油精製への投資検討 脱米国

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、先週の急落から持ち直し 今

ビジネス

短期需要対応のFRBバランスシート拡大は回避すべき
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中