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「越えてはならない一線」を明確に、バイデンがイスラエルの戦争拡大を防ぐためにやるべきこと

The Failure of Biden’s Bear-Hug Approach

2024年4月24日(水)15時08分
トリタ・パールシー(クインシー研究所副理事長)

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イランによる攻撃後、回収したイランのミサイルについて語るイスラエル軍報道官 AMIR COHENーREUTERS

そもそも歴代の米大統領は、イランとの軍事対決を望むネタニヤフに同調してこなかった。ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、そしてドナルド・トランプですら、イスラエルの暴走を牽制してきた。

軍事力でイランの核開発を止めることは不可能であり、中東での新たな戦争はアメリカの国益に反するという認識があるからだ。

あの地域が再び不安定化すれば、イラクとアフガニスタンにおけるアメリカの立場は一段と悪くなる。軍事力を今以上に中東方面に振り向ければ、もっと深刻な戦略的脅威、つまり中国に立ち向かう余裕もなくなる。

確かにブッシュ(息子)政権はイランに強硬な姿勢を示していたが、それは表向きのことだった。

2008年5月に当時のイスラエル首相エフド・オルメルトがイランの核施設攻撃についてアメリカの支持を求めたときも、ブッシュは自分が大統領である限り拒絶すると答えていた。

オバマはさらに一歩踏み込み、アメリカはイスラエルによるイラン攻撃にゴーサインを出さないと公言した。

そして政権に復帰したネタニヤフがイラン核武装の脅威を振りかざしてアメリカに軍事行動を迫ったときは、逆に外交的解決へと舵を切った。その結果が15年の、いわゆる「イラン核合意」である。

次のトランプはどうだったか。彼は歴代大統領の中で最もタカ派の男で、自分の利益になると思えばイランとの関係を荒立てることもためらわず、18年には核合意の破棄を求めるネタニヤフにあっさり同調した。

それでもネタニヤフの代わりにイランと戦争を始めることはなかった。

トランプ政権の元高官によると、トランプはネタニヤフがイランとの戦争で「米兵を最後の一兵まで戦わせる」つもりなのを見抜いていた。

こうして歴代の米大統領は、アメリカをイランとの戦争に引きずり込もうとするネタニヤフの策略に乗らずにきた。しかし、もはやそんな時代ではないらしい。

昨年10月以降、バイデンはほぼ無条件でイスラエルの戦争を支持している。それがアメリカの一貫した立場だと言うのだが、実は伝統から逸脱している。

ロナルド・レーガンもブッシュ(父)もオバマも、イスラエルに対しては常に自制を求めてきた。しかしバイデンはそれをしていない。

アメリカをイランとの戦争に引きずり込もうとするイスラエル側の試みを断固として拒絶するという、従来のアメリカ政府の立場を放棄したに等しい。

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