最新記事
中東

「越えてはならない一線」を明確に、バイデンがイスラエルの戦争拡大を防ぐためにやるべきこと

The Failure of Biden’s Bear-Hug Approach

2024年4月24日(水)15時08分
トリタ・パールシー(クインシー研究所副理事長)

newsweekjp_20240424022938.jpg

軍事パレードに出席したイランのライシ大統領 MORTEZA NIKOUBAZLーNURPHOTOーREUTERS

バイデンは歴代大統領よりもネタニヤフに肩入れしているだけではない。

彼は相反する2つの目標を掲げている。地域的な戦争を防ぐと言いつつ、戦争になれば(たとえイスラエルが仕掛けた戦争でも)断固としてイスラエルを支持すると表明している。

イスラエルはシリアにあるイラン大使館の施設を攻撃し、イラン軍最高幹部の1人を殺害した。イラン政府はこれをイラン領土への攻撃と見なし、戦争行為と断定した。

そしてイランが報復に出ると、米軍は英、仏、ヨルダン軍と連携してイランのミサイルを迎撃し、イスラエルを守った。

その後、バイデンはイスラエルによるイランへの「攻撃的」軍事行動には参加も支援もしないが、イスラエルが再び攻撃された場合には「防衛的」に支援すると宣言した。

だが攻撃的支援か防衛的支援かの区別は、戦争が始まった瞬間に不可能になる。

「一線」を明確にすべき

バイデンの論理は、ネタニヤフにイラン攻撃の動機を与えた。アメリカが最初の攻撃に参加しなくても、イランが本気で反撃してくればアメリカは否応なく戦闘に巻き込まれる。ネタニヤフはそれを承知している。

どう転んでもアメリカは自国の利益にならない戦争に巻き込まれ、中東から足を抜けなくなる。そうなればイランは核兵器の開発を急ぐに違いない。

バイデンが本当に戦争を防ぎたいなら、越えてはならない一線を明確に設定する必要がある。戦闘の拡大は絶対に許さない、アメリカのイスラエル支援は無条件のものではないと、明確に通告すべきだ。

1991年の湾岸戦争に際し、当時のブッシュ(父)大統領はイスラエルに対する敵味方識別(IFF)信号の提供を拒み、イスラエルのイラク攻撃を許さなかった。おかげで参戦した「有志連合」の団結を維持できた。

バイデンはこの先例に学ぶべきだ。

ネタニヤフは政治家人生の最後に待ち受ける刑務所行きを避けるために、この戦争を長引かせ、拡大させようと必死だ。ハマスとの戦争が始まって以来、彼はバイデン政権の遠回しな、あるいは水面下の要請に耳を貸さずにきた。

それでも今のところ、何のとがめも受けていない。そうであれば、彼の態度は今後も変わらないだろう。

思えば、バイデンが開戦直後にイスラエルへ飛び、ネタニヤフを固く「抱擁」したのが間違いだった。あのシンボリックな抱擁のせいで、既に3万3000以上のパレスチナ人の命が奪われた。

もしも2度目の抱擁があれば、ネタニヤフはそれを対イラン戦争のゴーサインと受け止めるだろう。その場合の代償は、アメリカ人とアメリカ兵の命で支払うことになる。

Foreign Policy logo From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国の世界的な融資活動、最大の受け手は米国=米大学

ビジネス

S&P、丸紅を「A─」に格上げ アウトルックは安定

ワールド

中国、米国産大豆を買い付け 米中首脳会談受け

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、一時9カ月半ぶり高値
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中