最新記事
イラン大使館攻撃

イスラエルによるイラン大使館空爆は「恐ろしいテロ」か「正当な軍事攻撃」か?

A Warning from Tehran

2024年4月8日(月)13時40分
トム・オコナー(外交担当シニアライター)
噴煙の上がるイラン大使館 FIRAS MAKDESIーREUTERS

噴煙の上がるイラン大使館 FIRAS MAKDESIーREUTERS

<シリアの大使館攻撃でイラン革命防衛隊幹部が死亡。イスラエルは沈黙を守るが、地域紛争拡大の懸念も>

エイプリルフールではなかった。4月1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館にミサイル攻撃があり、多くの死傷者が出た。これを受けてイラン政府高官はイスラエルに対し、こうなったら積極的な報復に出ざるを得ないと警告した。

イランの国連大使ザーラ・エルシャディが翌2日に発表し、国連安全保障理事会(安保理)の議長国マルタのバネッサ・フレイザー大使に提出した声明によれば、イラン人職員7人(革命防衛隊の司令官2人を含む)を殺害した今回の行為はイスラエルによる「恐ろしい犯罪であり卑劣なテロ行為」だ。

イスラエル軍は攻撃への関与を肯定も否定もしていない。だがエルシャディは、国際法に違反するのみならずシリアの主権を侵害する行為だと強く非難。「国際社会の共有する原則、すなわち一国の外交使節団の不可侵性を踏みにじるもの」と断じた。

イラン政府は攻撃当日にも国連へ書簡を提出していたが、エルシャディは改めて安保理に対し、イスラエルを強く非難するよう求めた。

パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスとイスラエルの衝突に由来する緊張が中東各地に広がるなか、「わが国は最大限に自制してきたが、忍耐にも限度がある」と、エルシャディは論じ、今回の大使館攻撃に伴う「責任はあの占領政権(イスラエル)に取らせる。イランは国際法と国連憲章の下で断固とした対応を取る正当かつ固有の権利を有する」と強調した。

非難の焦点は不可侵権

大使館攻撃を非難しているのはイランやシリアだけではない。中東各国はもちろん、中国やロシアなども批判している。エルシャディは、国連安保理で議論すべきだというイラン政府の呼びかけに同調した中国政府とロシア政府に謝意を表明した。

2日には国連のシリア担当特使ガイル・ペデルセンも正式に非難声明を出し、「外交使節団の不可侵権は国際法の下で例外なく尊重されるべきだ」と指摘している。

「域内で暴力と危険が増大している時期だからこそ、誰もが緊張を激化させることなく、国際法の定める義務を果たすべきだ」と、ペデルセンの声明にはある。「全ての関係者が最大の抑制を保ち、紛争のさらなる拡大を回避することが必要だ。少しでも計算違いがあれば紛争が拡大し、シリアおよび中東地域に深刻な結果をもたらす恐れがある」

イランのエルシャディも、大使館攻撃は「域内の緊張を激化させ、他国をも巻き込む紛争拡大の引き金となりかねない」と主張している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EUが2兆ユーロの次期7カ年予算案提示、防衛と競争

ビジネス

再送米経済活動は小幅拡大、物価は上昇 見通しやや悲

ワールド

イラク・クルド自治区の油田にドローン攻撃、施設損傷

ビジネス

再送-〔アングル〕円安への備え進むオプション市場、
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏にも送電開始「驚きの発電法」とは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 5
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 6
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 9
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 10
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中