最新記事
ヘルス

大流行中の「奇跡のダイエット薬」オゼンピック、「鬱や自殺願望」などを引き起こすリスクを新研究が警告

‘Deadly Risk’ of Fat-Loss Drugs

2024年4月12日(金)17時18分
パンドラ・デワン(本誌サイエンス担当)

処方に際して医療関係者に熟慮を求める

トベイキと共著者のハジェル・エルクートは、欧州医薬品庁(EMA)が運営する有害事象の管理・分析システム「ユードラビジランス」を精査。21年1月~23年5月に報告されたセマグルチド(オゼンピックとウゴービ)、同種の薬剤のリラグルチド(日本での商品名ビクトーザ)とチルゼパチド(商品名マンジャロ)に関する事例を分析した。

それによると、対象期間中の有害事象報告数は3万1444件。精神科的有害事象は計372件だった。

「報告数のうち女性の割合は65%(242件)で、男性は29%(108件)だった」と、トベイキは言う。「自殺行動や鬱に起因する致死事例では、男性が圧倒的多数(9件中8件)を占める。目を向けるべき深刻な問題だ」

裏付けにはさらなる研究が必要だが、今回の結果は処方に際して医療関係者に熟慮を求めるものだ。

「患者の自殺願望・自殺未遂歴の有無を考慮する必要がある」と、トベイキは指摘する。「論理的には、患者に精神的問題があるなら、代替の薬剤や治療法について話し合うべきだ。患者側は、気分や行動に変化を感じたら、医師や保健当局に報告してほしい」

「心疾患リスクの低減など、これらの新薬が持つ効果は危険性を上回ると、私自身は考えている。だが報告事例の種類や深刻度を考えると、潜在的有害性を真剣に受け止めなければならない」

ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の精神神経科学教授で、同大学特別フェローのマイケル・ブルームフィールド(トベイキらの研究には関与していない)も、同じ見方をしている。

「副作用の潜在的重症度を考えれば、さらに研究が必要だという著者らの意見に賛成だ」と、ブルームフィールドは本誌に語った。「どんな人が特にリスクが高いのか、どうすれば自分の身を守れるのか、後続研究なしに理解するのは現段階では難しい」

「鬱や自殺願望が以前から存在する場合、こうした潜在的副作用がより起こりやすい可能性はある。だが、答えはまだ分からない」

ただし、精神科的副作用の発生率は極めて低いと、ブルームフィールドもトベイキも強調する。有害事象を体験した「患者に、薬剤使用開始時に精神的な問題があったのかという点もはっきりしない」と、トベイキは話す。「注意深く解釈する必要がある」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中