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ガザ紛争

イスラエルがハマスを壊滅させたときに起こること

HOW WILL THE WAR IN GAZA END?

2024年2月15日(木)17時38分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
ヨルダン川西岸地区 ハマス

ヨルダン川西岸地区でハマス支持を叫ぶデモ隊(昨年10月) MUSSA QAWASMAーREUTERS

<ネタニヤフの本当の目標は「自分が権力の座にとどまること」。イスラエルは容赦ない攻撃を続け、西岸地区ではハマス支持が高まり、仮に紛争が終結しても......>

第2次大戦が始まって1年、イギリスの戦時内閣は戦争目標を明確にするための委員会を設立した。その翌年にはチャーチル英首相とルーズベルト米大統領が大西洋憲章を策定し、英米の戦争目標と将来に向けた共通のビジョンを確立した。

いまイスラエルがイスラム組織ハマスに容赦ない攻撃を続け、パレスチナ自治区ガザの人道危機が深刻さを増すなか、バイデン米大統領はイスラエルの扱いにくい指導者たちが、当時の英米のような取り組みを始めることを願っているだろう。

今のところイスラエルのネタニヤフ首相は、ガザでの戦闘終結に向けた交渉を全て拒んでいる。パレスチナとのより広範な和平については、なおさらのことだ。

実際、ガザに対する攻撃は、ネタニヤフの戦略的な目標にほとんど役立っていないように見える。彼の本当の目的はただ1つ、極右の連立政権の結束を維持し、自分が権力の座にとどまることだ。

そのためには戦争を継続させる必要があるのだが、これは非現実的で危険な目標だ。1987年の創設以来、ハマスはパレスチナ社会に深く根差しており、ヨルダン川西岸地区を支配するパレスチナ解放機構(PLO)にとって脅威となってきた。

しかも、いまガザでイスラエル軍に立ち向かっていることにより、パレスチナ人の間にはハマス支持の声が高まっている。特に戦闘の甚大な影響が感じられない西岸地区の住民に、その傾向が強い。いまハマスは残るイスラエル人の人質と引き換えに、イスラエルで収監されているパレスチナ人の釈放を求める交渉を行っているが、成功すれば人気はさらに急上昇するだろう。

仮にイスラエルがハマスを壊滅させたなら、自国の安全保障に悪影響を及ぼしかねない。紛争後の混乱の中で多くのハマス戦闘員が犯罪組織や、もっと過激なサラフィスト(イスラム厳格派)の組織に加わるだろう。

現代の中東では政治的空白が暴力と混乱につながる。アフガニスタンはソ連が侵攻していた80年代後半に、国際テロの拠点となった。過激派組織「イスラム国」(IS)による「カリフ制国家」が出現したのも、混乱と内戦で政府の権威が崩れ去っていたシリアとイラクにまたがる地域だった。

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