最新記事
中東

イラクの親イラン武装組織「カタイブ・ヒズボラ」司令官暗殺で、高まる米軍追放の怒声と報復攻撃の脅し

Iraq's Hezbollah Issues New Threat to US and Israel After Officials Killed

2024年2月9日(金)12時12分
トム・オコナー

米軍はここ数カ月、イラクとシリアの駐留部隊を狙った攻撃に対し、何回か空爆を行ってきたが、先月末ヨルダンとシリアの国境地帯にある米軍基地がドローン攻撃を受け、米兵3人が死亡したことで米政界の風向きは一変した。報復攻撃を支持する声が一気に高まり、ジョー・バイデン米大統領は2月2日、イラクとシリアの7カ所の軍事施設にある80余りの標的に対する空爆を命じた。これらは全て、イランの革命防衛隊と「イラクのイスラム抵抗運動」傘下の武装組織が使用しているとみられる施設だ。

ホワイトハウスはこれについて、この地域の米兵に対するさらなる攻撃を抑止するため、追加的な作戦遂行を計画した結果だと説明した。

 

米兵3人が死亡したドローン攻撃については、カタイブ・ヒズボラの犯行とみられたため、米軍の報復を恐れたのか、事件直後の1月末、この地域における米軍に対する攻撃を全て中止すると宣言した。アルサーディ司令官殺害については、非難声明を出したものの、米軍に対する軍事作戦を即座に再開するとは言っていない。

だが報道によれば、「イラクのイスラム抵抗運動」によるものとみられる米軍に対する攻撃は今も続いている。2月5日には、シリア東部デリゾール県のアル・オマール油田内の米軍が支援するクルド人主導の反政府組織「シリア民主軍(SDF)」の訓練施設がドローン攻撃を受け、SDFの戦闘員6人が死亡した。

イラク政府とシリア政府はいずれも、米軍が自国の領土で許可なく作戦を実行したことを非難している。とりわけイラク政府にとって、これはデリケートな問題だ。イラクは2003年に米主導の有志連合の侵攻を受けてサダム・フセイン体制が転覆した後、アメリカと安全保障に関する二国間協定を結んで連携してきた。

だがその後、両国の関係は悪化している。過激派組織「イスラム国(IS)」の掃討に成功したものの、それによって受けた打撃からまだ完全に立ち直っていないイラクにとって、アメリカとイランの緊張激化と、それによって生じた米軍とイラクの親イラン派民兵組織との衝突が、国を不安定化させる脅威となっている。

イスラエルとハマスの戦争、そしてアメリカによる血の報復攻撃が引き起こすであろう新たな暴力の連鎖を受けて、イラクでは駐留米軍を外交または武力によって国外に追放すべきだという声が高まっている。

エスカレーションはアメリカのせい

米軍によるカタイブ・ヒズボラの攻撃を受けて、バグダッドでは少なくとも1台の車が炎上。この現場の周りで集まった人々が米軍の攻撃に抗議するなど、緊張がますます高まっている。イスラエルとの戦争で前線にいる複数のパレスチナ組織もこの攻撃に怒りを表明し、非難声明を出した。

ハマスは声明の中で、「今回の攻撃はイラクの主権と安全保障を侵害する行為であり、シオニストによる占領や拡張主義的な計画を後押しするものと考える」とアメリカを非難。犠牲者に哀悼の意を表し、「バイデン米政権は、ガザ地区のパレスチナ人に対するナチス式の集団虐殺(ジェノサイド)を支援することで、中東地域における緊張や暴力のエスカレーションを煽っている」と主張。さらに「シオニストによる我々パレスチナ人およびアラブ人の土地の占領を終わらせる以外に、この地域に安定や平和が訪れることはないと再認識した」と述べた。

ニューズウィーク日本版 コメ高騰の真犯人
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月24日号(6月17日発売)は「コメ高騰の真犯人」特集。なぜコメの価格は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電

ビジネス

パリ航空ショー、一部イスラエル企業に閉鎖命令 イス

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中