「猫も人間が好き。ただ犬より愛情表現が分かりにくい」最新科学が解き明かす猫の本当の気持ち

THE MIND OF A CAT

2023年12月28日(木)17時26分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

231114P18NW_NKO_02v2.jpg

ポングラッツ教授の研究によると、猫は飼い主のまなざしを見るだけで、何を考えているか推測することができる。おかげで大昔から人間と程よく距離を保ちながら居住空間を共有し、かわいがられることに成功してきた。いま世界で約2億2000万匹の猫が人間に飼われている RF PICTURES/GETTY IMAGES

22年の1年でアメリカ人はペットの飼育に1368億ドルを費やし、そのかなりの部分が猫に使われた。

現在ペットとして飼育される猫は世界におよそ2億2000万匹おり、そのうちの5880万匹がアメリカで暮らす(犬の飼育頭数は世界で4億7100万を超える)。

猫がそのカリスマ的な魅力で人の心をつかんだ証拠は、有史以来残っている。

04年にキプロス島で9500年ほど前の墓地を発掘したところ、生後8カ月の小猫と一緒に埋葬された成人の墓が見つかった。キプロスにもともと猫はいなかったから、船で連れてこられたのだろう。

1万年以上前から人間と同居

古代エジプトでは、人間と猫の特徴を併せ持つ女神バステトが崇拝されていた。

バステトは太陽神ラーの娘で、その信仰の中心地だったナイル川デルタの都市ブバスティスの遺跡では、猫のミイラや猫の彫刻が多数発見されている。古代エジプトの建物には、猫の装飾が施された柱も多い。

猫は不思議な力を持つ生き物と考えられていた。

人間と猫が同居するようになったのは、少なくとも1万2000年前のことだと、米ミズーリ大学獣医学部のレズリー・ライオンズ教授は語る。

メソポタミア地方の氷河が解けて、チグリス川とユーフラテス川流域の肥沃な三日月地帯で農耕文明が生まれると、人々は定住するようになった。

やがて農作物やゴミの集積場所がネズミを引き寄せ、ネズミが猫を引き寄せた。

このプロセスは、猫と人間の関係が、犬と人間の関係とは異なるものになった理由を説明している。

初期の犬は、餌として人間の残飯をもらわなければならなかったから、人間の心をつかむ能力にたけた種が生き残った。

また、狩猟採集民は狩りを手伝ってくれる犬を重宝した。こうした環境が、現代に至る犬の進化や淘汰に影響を与えた。

これに対して初期の猫は、人間の生活圏の周縁で、人間の邪魔をしないように獲物を捕獲することで生き残った。

その一方で、犬よりも体が小さく、群れをつくらない性質から、オオカミやコヨーテ、ワシ、フクロウ、アライグマなどに捕食されやすかった。

だから猫は犬よりもずっと警戒心が強い動物に進化したのだ。好奇心が強いけれど、用心深く、不透明な状況ではひとまず身を隠す。

ポングラッツが研究しようとした猫が、空調設備のダクトに逃げ込み、出てこようとしなかったのもそのためだ。

こうした生来の臆病な性質は、人工的な交配により克服できる場合がある。それでも、人間が石器時代から犬を飼育して望ましい性質を伸ばしてきたのに対して、猫を訓練するようになったのはごく最近だ。

現在も猫は「半家畜化」されたというのがせいぜいだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコ大統領と協議 米ロ会談前に各

ワールド

FRBの独立性は「最重要」、関税は顕著なインフレ引

ワールド

ガザ人道危機「想像を絶する」、日本含む24カ国外相

ワールド

OPEC、26年原油需要見通し引き上げ 域外産油国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【徹底解説】エプスタイン事件とは何なのか?...トランプが「顧客リスト」を公開できない理由、元米大統領も関与か
  • 2
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入する切実な理由
  • 3
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客を30分間も足止めした「予想外の犯人」にネット騒然
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 7
    「古い火力発電所をデータセンターに転換」構想がWin…
  • 8
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 9
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 10
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 1
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 2
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの母子に遭遇したハイカーが見せた「完璧な対応」映像にネット騒然
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 5
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中