最新記事
ミャンマー

謎だらけミャンマー内戦を解説。少数民族vs軍事政権vs民主派、中国の思惑...国軍は劣勢に追い込まれた

OMEN IN SHAN STATE

2023年11月23日(木)12時45分
ドレーク・ロング(ブルート・クルラック・イノベーション&未来型戦争研究所非常勤研究員)

国境地帯での陣取り合戦

そして10月末、TNLAとミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、アラカン軍(AA)の3つの少数民族武装勢力から成る3兄弟同盟が国軍の拠点を攻撃。中国との国境に位置する数カ所の要衝を掌握した。

開始日にちなみ1027作戦と呼ばれるこの攻撃で、3兄弟同盟は限られた兵力で大きな戦果を上げた。この3勢力がこの作戦で配置できた戦闘員は合計2万人程度。作戦に協力したPDFと他の武装勢力を加えても大した数にはならない。

しかも中国との国境地帯で起きた戦闘で劣勢に追い込まれたことで、国軍の面目は丸つぶれになった。対中貿易への依存を深めるミャンマーの軍事政権にとって、反軍政派が国境地帯で支配地域を拡大するのは何としても避けたい事態だ。

中国の王毅外相とミャンマーのチョウティンスエ国家顧問府相

中国の王毅(ワン・イー)外相とミャンマーのチョウティンスエ国家顧問府相(2019年8月) HOW HWEE YOUNGーPOOL/REUTERS

中国政府はシャン州北部の情勢を注意深く見守っている。中国外務省は戦闘停止を求める公式声明を発表。支配地域の奪還を目指して戦闘を続けようとするミャンマー国軍の勇み足を牽制した。

3兄弟同盟はこの作戦で何を得ようとしたのか。時期と場所から判断すれば、軍事政権との今後の交渉で優位に立つために攻撃を行ったとみていい。NCAかそれに代わる停戦合意をめぐる交渉では、国境地帯における支配地域の線引きが行われる。それまでに少しでも支配地域を広げて既成事実をつくっておこうという算段だろう。

軍事政権は発足直後から自分たちに有利な条件で交渉を再開しようと各地の少数民族武装勢力に盛んに働きかけてきた。

軍事政権は権力維持を正当化して国際社会との関係を正常化するために、2025年をめどに(自由でも公正でもない)選挙をミャンマー全土で実施することを計画している。そのためには少数民族武装勢力がNCAか別の形の停戦合意に署名し、かつ遵守する必要がある。

軍事政権は既に、いくつかの少数民族武装勢力のNCAを遵守する意思を確認している。特にシャン州復興評議会(RCSS)は、NCAに合意した中で唯一、現在も政権と話し合いを続けている。しかし、シャン州のRCSSの支配地域は、この1年で敵対する少数民族武装勢力に大きく侵食されている。

TNLAは昨年1月に州北部からRCSSを事実上排除した。今春には州南部でもSSPPがRCSSを攻撃した。国軍が夏にTNLAとSSPPを攻撃したのは、こうした支配地域の拡大にも関係があるようだ。

夏からの国軍との戦闘に巻き込まれた武装勢力はいずれも、何らかの停戦に完全に反対しているわけではない。軍事政権は基本的に、ある武装勢力グループには譲歩を示し、別のグループとの戦いに注力するという「分断統治」を行ってきた。しかし今、この長年の戦略が崩れ始め、武装勢力側が将来の交渉条件を決める力を持ちつつある。

編集部よりお知らせ
ニューズウィーク日本版「SDGsアワード2025」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、新たな相互関税率は8月1日発効=ホワイトハウス

ワールド

米特使、イスラエル首相と会談 8月1日にガザで支援

ビジネス

エヌビディア「自社半導体にバックドアなし」、脆弱性

ワールド

トランプ氏、8月8日までのウクライナ和平合意望む 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中