最新記事
ミャンマー

謎だらけミャンマー内戦を解説。少数民族vs軍事政権vs民主派、中国の思惑...国軍は劣勢に追い込まれた

OMEN IN SHAN STATE

2023年11月23日(木)12時45分
ドレーク・ロング(ブルート・クルラック・イノベーション&未来型戦争研究所非常勤研究員)

高まる中国のプレゼンス

3兄弟同盟が中国との国境地帯を標的にしていることは、このような少数民族武装勢力の狙いに関連していると考えられる。

中国政府の注意を引くことによって、ミャンマー国軍に自分たちが依然として侮れない勢力であることを思い出させようというだけではない。中国に対しても、平和的解決のためには中国が全ての武装勢力の後援者として、軍事政権に対して潜在的な力を行使しなければならないことを強調している。

中国が和平交渉において大きな影響力を持っていることは、少数民族武装勢力も認めている。中国は彼らをなだめすかして軍事政権と対話をさせたり、国軍の軍事作戦が混乱して国境付近で中国側の町が危険にさらされたときは、軍を説得して作戦を縮小させたりしている。

3兄弟同盟は今回の声明で、攻撃の目的の1つは、中国との国境沿いのミャンマー側で組織犯罪を撲滅することだと主張している。これは中国共産党が近年、同調していることでもある。その真意はともかく、今回の攻撃が中国にとって何の脅威でもなく、利益になるだけだというメッセージであることは明らかだ。

この1年、軍事政権は、交渉に消極的な少数民族武装勢力に圧力をかけて交渉の席に着かせることもできず、武器を捨てさせることもできず、少なくともPDFへの支援をやめさせることもできなかった。さらには、軍事政権に同調して和平交渉を受け入れている少数民族武装勢力を守る力がないことも露呈した。

全体として、3兄弟同盟の攻撃は今夏の国軍の攻撃に反応したもので、ある意味で「反撃」と言えるだろう。どの勢力も支配地域の重要な拡大を目指し、ミャンマーの連邦的な、あるいは連合的な未来を築くための交渉プロセスで自分たちの立場を強化しようとしている。

いずれにせよ、ミャンマーの内戦について考察する際の前提を更新する必要がありそうだ。

国軍は守勢に立たされ、少数民族武装勢力は軍事政権の分断統治の影響を受けなくなった。国軍はもはや無敵ではない。PDFは攻撃的な作戦にこれまで以上に参加するようになり、一方で少数民族武装勢力と連携して、軍事政権が主張する統治権を弱体化させるような、地域ごとの代替の統治機構を確立しつつある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中