大学に「公式見解」は要らない...大学当局が「戦争に沈黙すべき」3つの理由とは?

A PROFESSOR’S WARNING

2023年11月15日(水)16時15分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

1つ目は、政策の世界と緊密につながりたいという願望が、教育機関が官僚や著名な市民を過度に敬うことにつながる危険だ。権力者に真実を語るという大学の任務を遂行する代わりに、学術機関が権力の最良の友となるために多くの時間と労力を費やすことになりかねない。

大学において、権力者や著名人に過剰に恭順する文化は、教員が個人として現行の政策に異議を唱え、官僚を公然と批判する意欲さえ失わせるかもしれない。染み付いた正統性に異議を唱えるどころか、大学がそれを補強するエコーチェンバーになるかもしれないのだ。

学長は大学を代弁できない

2つ目の危険は、特定の問題に深い関心を持つ寄付者が、自分の見解を教育機関に受け入れさせようとすることだ。厄介な質問を投げかけて真実に迫ろうとする研究を支援するのではなく、どのような質問をするべきか、どのような答えを正しいとするべきかについて、強い意見を持つ寄付者もいるかもしれない。

しかし、教育機関の指導者は、寄付者を満足させたいという願望ゆえに、寄付者の好みと対立する見解を持つ教員や学生を疎外してはならない。ここでもまた、カルベン報告書の原則が、教育機関がこうした誘惑にあらがう手助けをする。

政治的にも社会的にも激動の時代に大学を運営する人々に、私は心から敬意を表し同情する。彼らは常に、大学の地位と威信のどちらを優先するかという判断を迫られている。

学術機関のトップにも、物議を醸す問題について個人の見解は当然あるし、論争が起きれば意見を述べたいという欲求が湧き起こる。

ただし、そうした欲求は我慢しなければならない。意見が二分される問題ではなおさら、学部長は学部を代弁することはできず、学長は大学全体を代弁することはできないのだ。

皮肉なことに、カルベン報告書の原則にさらに忠実になれば、学長や学部長はニュースで物議を醸している話題にコメントするという重圧から解放される。

そして本来の仕事、つまり、学生や教員が可能な限り正直に、制約を受けずに、敬意を持って考え、書き、話すことができる環境を育むことに力を注ぎやすくなる。

そのようにして大学は、社会をより良くするための知識の生産者という独自の役割を守り続ける。

From Foreign Policy Magazine

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スイス、米の関税引き上げ精査 「交渉による解決」目

ビジネス

JR東、来年3月運賃引き上げ 東京圏で特に大きく

ビジネス

TDK、4-6月期は2.5%営業減益 幅持たせた通

ワールド

南ア、30%の米関税で数万人の雇用喪失の恐れ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中