最新記事
ウクライナ情勢

「そこには秘密のルールがある」と米高官...CIAが戦う水面下のウクライナ戦争

CIA: NOT ALL-KNOWING

2023年7月26日(水)12時50分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

230801p18_CIA_06.jpg

ロシアが最近配備した大陸間弾道ミサイル「トポルM」 VYACHESLAV ARGENBERG/GETTY IMAGES

続いて10月8日、クリミア大橋がトラック爆弾で破壊された。以前からウクライナ側が攻撃目標の1つに挙げていた橋だ。実行犯は不明だったが、プーチンはウクライナの「特殊部隊」の犯行と決め付けた。そして自国の安全保障会議の場で、「われわれの領土でこのようなテロ行為が続くなら、ロシアは厳しく対応する」と述べた。そして実際に、ウクライナの都市を標的とした複数の攻撃で対応した。

CIAは当時、誰が仕掛けたのかを必死で突き止めようとした。前出の軍情報部の匿名高官は言う。「クリミア大橋への攻撃でCIAは学んだ。ゼレンスキーは自国の軍隊を掌握できていないか、あるいは特定の作戦行動については目をつぶっているか、そのどちらかだと」

クリミア大橋の攻撃に続いて、首都キーウから1000キロ以上も離れたロシアのエンゲルス空軍基地に対する長距離攻撃も行われた。アメリカ政府の別の匿名高官によれば、CIAはこれらの攻撃を事前に察知していなかった。しかしCIAが指示を出し、ロシア領を攻撃させたらしいという噂が流れ始めた。するとCIAは公式に、強力かつ異例の否定声明を出した。「CIAがロシアに対する破壊工作を何らかの形で支援しているという疑惑は、全くの虚偽だ」。CIAのタミー・ソープ報道官はそう語ったものだ。

ウクライナを抑えるのは困難

今年1月、バーンズCIA長官はキーウを訪問し、ゼレンスキーと会い、この秘密の戦争と戦略的安定の維持について話し合った。だが「ウクライナ政府は勝利の可能性をかぎ取っており、今までより大胆にリスクを冒すようになっていた」と2人目の匿名高官は言う。「ただし、ロシア国内に独自の破壊工作グループが出現しているのも事実だ」

それでも表面上の変化はほとんどなく、CIAも「知らぬ存ぜぬ」で通していた。そこへ起きたのが今年5月3日のクレムリンへのドローン攻撃だ。ロシア連邦安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記は、米英を名指しで非難し、「今回のテロ攻撃は社会・政治情勢を不安定にし、ロシア国家の主権を脅かすために仕組まれた」と述べた。

一方でウクライナ政府は暗に関与を認めた。「カルマ(因果応報)とは残酷なものだ」。ゼレンスキーの顧問ミハイロ・ポドリャクはそう言い放った。あるポーランド政府高官は、戦線をロシア領内にまで広げないという裏協定を守るようにウクライナ政府を説得するのは不可能に近いと本誌に語った。「私見だが、CIAはウクライナという国家の本質を理解できていないようだ」

この点を問いただすと、国防総省の匿名高官は次のように答えた。CIAにはさまざまな役割があり、そこのバランスを取るのは難しいから、現時点で「CIAが失敗したとまでは言いたくない」。ただし破壊工作や越境攻撃で新たな、かつ複雑な状況が生まれているのは事実だとし、ウクライナによる破壊工作が続けば、「悲惨な事態」につながる可能性があると警告した。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中