最新記事
事件

スパイ防止法違反など37の罪で起訴されたトランプ 機密文書持ち出し問題で正当性立証は困難か

2023年6月12日(月)12時53分
ロイター

問題なのは隠ぺい工作

捜査中にトランプ氏の弁護団はFBIに対して、所持していた機密文書は全て渡したと伝えたが、それは偽りだった。弁護団側は捜査当局を意図的に欺こうとしたわけでないと説明している。

ブレナン・センターのゴイテイン氏は「これは隠ぺい工作が罪そのものより悪質とされる状況だ。トランプ氏が単なる不注意(で文書を渡さなかったので)あれば、立件されなかっただろう」と話した。

共謀行為によって、司法妨害の罪がさらに重大化する。検察側が証明しなければならないのはトランプ氏が別の誰かとともに、捜査の目をくらまそうとしたという点で、そうした企てが成功したかどうかは問題ではない。

ケイトー研究所のニーリー氏は、起訴状を読む限り、検察側はトランプ氏の共謀行為を証言してくれる多くの人を得られそうだとみている。

トランプ氏は、文書持ち出し前に機密指定を解除したと申し立てている。しかし起訴に際して提示された録音データでトランプ氏が数人に機密書類を見せた上で、大統領として機密指定解除はできたが、実際はしなかったと述べたことが分かっており、トランプ氏の主張は説得力が乏しい。

さらに機密指定問題は最終的には、あまり意味をなさなくなるだろう。それは検察側がトランプ氏をスパイ防止法違反で起訴しているためで、機密指定制度の導入前に当たる第一次世界大戦時に制定されたスパイ防止法は、国家防衛に関する情報を権限なく所持するだけで違法とみなすからだ。

ジョージタウン大学のトッド・ハントリー教授(法学)は「例えば全ての文書の機密指定を解除したとしても、スパイ防止法では関係がなくなる」と述べた。

トランプに残された活路は?

もっともトランプ氏側にも、裁判で勝利する可能性がないわけではない。弁護団は証人の申し立てに異議を唱える可能性があるし、トランプ氏が弁護団の助言に従っただけで法律違反の意図はなかったと主張してもおかしくない。

また裁判になれば審理が開かれるのは、特別検察官が訴状を持ち込んだフロリダ州の陪審団となるが、同州は保守派が強い。ここで有罪に反対する陪審員が1人出ただけで、トランプ氏の審理は無効になる。

トランプ氏の弁護団は、同氏が立候補している2024年の大統領選が終わるまで、審理開始を延期するよう要請するケースもあり得る。法律専門家の間では、実際にトランプ氏が当選してしまった場合、「無罪放免」となるのかどうかについては意見が分かれている。

(Jack Queen記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


テクノロジー
「誰もが虜になる」爽快体験...次世代エアモビリティが起こす「空の移動革命」の無限の可能性
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ

ワールド

米国防長官、「中国の脅威」警告 アジア同盟国に国防

ビジネス

中国5月製造業PMIは49.5、2カ月連続50割れ

ビジネス

アングル:中国のロボタクシー企業、こぞって中東に進
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 6
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 9
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 10
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中