最新記事
アメリカ

「沈黙」する米潜水艦隊...本誌の調査報道が暴く「不十分すぎる」運用の実体

SUNK COST

2023年5月19日(金)12時30分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

230523p18_SSK_04edt.jpg

シーウルフ級原潜コネティカットが北極海の氷を割って浮上。極地での演習に参加した(2020年) MICHAEL B. ZINGAROーU.S. NAVY

ジブラルタルの英海軍基地に5日間停泊した後、オールバニはノルウェー海に向かった。ロシアのウクライナ侵攻で第2次大戦以来ヨーロッパにおける最大の戦争が始まったときには、潜航73日目を迎えていた。さらに3月20日にはスコットランドのファズレーン英海軍基地に寄港。数日後に出航して4月5日にはノルウェーのトロムソに現れ、さらに2週間ほどノルウェー沖を潜航し、計3万5000カイリの航海を終えて5月14日に母港に帰還した。

母港で通常の保守点検を終え、乗組員が交代して8月16日に出航。米海軍と南米各国の海軍が長年実施している多国籍の海軍演習「第63回ユニタス」に参加した。今年の主催国はブラジルで、オールバニは9月に同国のマデイラ海軍基地に5日間停泊し、9月26日に帰還した。

ブラジルに派遣されたことは公表されておらず、北大西洋での73日間の潜航についても詳細は明らかにされていないが、オールバニはスケジュールどおりの航路をたどったはずで、そのスケジュールは1年以上前に組まれた可能性がある。

「潜水艦の活動で理解すべきは、スケジュールが全てということだ」と、サンディエゴを拠点とする潜水戦隊の現役の将官は言う。「潜水艦が(計画にない海域に)時には通告なしに姿を見せることもあるが、(ウクライナ戦争が起きた)22年のような年でもそれは非常にまれだ」

本誌が入手した米海軍の機密文書もこの発言を裏付けている。昨年、事前の計画と異なる海域に姿を見せた潜水艦はミシシッピ、ニューメキシコ、ニューハンプシャー、コネティカットの4隻のみ。それもウクライナや台湾に関連した出動ではなく、ただの訓練だった。「(計画された航路を外れること)自体、計画されている」と、将官は肩をすくめる。

事前に計画した動きであっても、潜水艦が突然浮上することで「シグナルを送れる」と、海軍大学の教授は言う。つまり中国とロシアにアメリカが軍事大国であると誇示し、同盟国を守る意思を示し、米軍は敵の潜水艦が活動する海域にいつでも出動する用意がある、と伝えられるのだ。想定外の海域に想定外のやり方で浮上することがシグナルになる。

例えば大西洋艦隊の3隻、ノースダコタ、ジョン・ウォーナー、インディアナは昨年5月、ロシアの隣国ノルウェーの港湾にほぼ同時に寄港したが、これは明らかにロシア向けのシグナルである。

中ロの潜水艦が他国の周辺で不穏な動きを見せたら、米海軍の攻撃型潜水艦が即座にそれを阻止できると、海軍の専門家は口をそろえるが、現実にはそんな出番はまずない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中