最新記事
中国

「世界最大」となった中国海軍──インド洋で増す存在感...ジブチ「保障基地」が果たせる役割とは

CHINESE SUBS APPROACH

2023年5月17日(水)13時00分
プラカシュ・パンニールセルバム(インド国立高等研究所国際戦略・安全保障研究プログラム助教)
潜水艦

「世界最大」となった中国海軍はジブチ保障基地を拠点にインド洋へ潜水艦を展開するとみられている ROBERT NGーSOUTH CHINA MORNING POST/GETTY IMAGES

<インド洋で、深く静かに拡大する存在感、潜水艦や調査船の活動が波乱を招いている>

米国防総省が昨年11月に公開した報告書「中国の軍事・安全保障動向2022」によれば、今や中国海軍は「数値的」に世界最大だ。中国が「より遠方で軍事力を誇示し、維持する」能力を手にする上で、アフリカ東部ジブチにある中国海軍の「保障基地」が重要な役割を果たすと、同報告書は指摘している。

中国軍初の国外基地であるジブチ保障基地には、全長300メートルにわたる係留ドックが整備され、大型艦船の空母や潜水艦、揚陸艦が入港可能な状態だ。水上艦と潜水艦向けの乾ドックや修理施設も建造されるのではないかと、専門家はみている。2017年に正式に開設されて以来、この基地では新たな岸壁の建設が続き、地下には電子・サイバーセキュリティー施設が存在する疑いもある。

ジブチは紅海の玄関口に位置する要衝だ。その地に中国が構える基地は軍事演習やアウトリーチ活動に積極的に関与し、存在感を示している。

同基地は「ロジスティクス施設」または「支援基地」だと、中国は国際社会に説明している。だが最近の建設状況を見れば、完全な海軍基地と化しているのは明らかだ。

中国が経済・商業活動を通じてインド洋地域で存在感を強めようとするなか、インドにとってジブチ保障基地の整備(さらに、その結果として、インド沿岸近くで中国の潜水艦や調査船のプレゼンスが高まる事態)は、安全保障懸念の拡大を意味する。

インド洋では09年以来、中国海軍の存在感が着実に大きくなっている。インド洋北西部にあり、ジブチやソマリアが面するアデン湾では当時、身代金目的の海賊行為やシージャックが横行し、海上輸送を妨害していた。そのため、国際社会が乗り出した海賊対処活動に中国も参加した。

現在に至っても、中国海軍のプレゼンスを正当化する主な名目は商業活動や海上交易の安全確保だ。海賊対策が任務だと主張して、13年以降はインド洋に潜水艦を展開してきた。

水中ドローン部隊も駆使

中国潜水艦にとってインド洋への通り道はマラッカ海峡、ロンボク海峡、スンダ海峡のどれかだ。

スンダ海峡は平均水深50メートルで、かなり浅い。砂州や石油プラットフォームが点在し、漁業が活発なこともあって難路だ。ロンボク海峡には、潜水艦が通常航行モードで進むのに十分な深度がある。一方、マラッカ海峡では運航安全上、潜水艦は水上航行しなければならない。潜水艦は多くの場合、物資補給を行う潜水母艦を付随するため、見つかりやすい。

インド洋では17年以来、中国海軍の調査船と潜水艦の存在が「常態」になっている。インドメディアの報道によれば、この年、中国海軍最高峰の636A型海洋総合調査船「銭三強(海洋22号)」がインド洋で調査を実施。潜水艦活動の改善が目的だった可能性が高い。

日本
【イベント】国税庁が浅草で「伝統的酒造り」ユネスコ無形文化遺産登録1周年記念イベントを開催。インバウンド客も魅了し、試飲体験も盛況!
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ビジネス

タイ中銀、バーツの変動抑制へ「大規模介入」 資本流

ワールド

防衛省、川重を2カ月半指名停止 潜水艦エンジンで検
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中