最新記事
アメリカ

「沈黙」する米潜水艦隊...本誌の調査報道が暴く「不十分すぎる」運用の実体

SUNK COST

2023年5月19日(金)12時30分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

230523p18_SSK_03.jpg

潜水艦追跡訓練を行うイタリア海軍の司令室 FABRIZIO VILLA/GETTY IMAGES

だが、アメリカの攻撃型潜水艦を66隻に増やしても、継続的に運用できる状態にあるのは4分の1であり、依然として不足は補えない。より安価な通常動力型潜水艦を増やすのは一案かもしれないが、アジアやヨーロッパで作戦を展開するための長距離航続能力を確保できない。しかし軍事機密が絡んでくるせいか、技術的優位と実際の有用性の違いを専門家が指摘することはない。

「(現代の紛争では)あらゆる局面で対潜水艦戦が重要になる。より優れた探知力、航空機、水上艦、魚雷、自律航行ビークルなどで敵の潜水艦を発見・撃沈する能力が必要だ」と、先の退役海軍将校は語る。

戦争勃発でも出番は増えず

攻撃型潜水艦の運用上の制約を理解するために、22年の海軍の記録(各艦の航海記録や敵艦との「接触」報告など)を見てみよう。実際に配備された32隻がロシアや中国に近い海域までの往来に要した時間は、配備期間の約30%を占めた。前方展開中に潜航していた時間は37%だ。

配備回数にも波がある。22年の1年間を平均すると、ロシアに対しては6隻が配備されていた計算になるが、6月は3隻だけだった。中国に対しては平均7隻が配備されていたものの、1月は4隻だけだった。

ステルスモードでの巡視活動のピークは2月と6月と10月で、6、7隻が潜航して哨戒に当たる。米海軍の3つの潜水艦、シーウルフ、スクラントン、インディアナはそれぞれ半年以上続けて潜航していた。

月平均では、潜航中の潜水艦は太平洋・大西洋両艦隊を合わせて5隻足らずにすぎなかった。ロシアによるウクライナ侵攻開始後の昨年3月に潜航していた米海軍の攻撃型潜水艦は3隻のみ。2隻はヨーロッパ近海、1隻は太平洋にいた。

母港を出た攻撃型潜水艦はほぼ例外なく3つの海域で活動する。アジア近海(主として東・南シナ海)、北大西洋(ノルウェー海と北海周辺)、それに地中海だ。任務は敵とおぼしき艦船の追尾、船舶の護衛、抑止力の誇示、演習参加、情報収集、特殊作戦など多岐にわたる。

昨年3月にはアラスカ州北部のプルドー湾の北およそ170カイリの北極海に2隻の潜水艦が氷を割って浮上したが、これは恒例の演習で、ロシアを牽制する意味合いは薄かった。

昨年最も多くの海域に出動したのはバージニア州ノーフォークを母港とするオールバニだ。この原潜は米海軍の大半の潜水艦よりタイトな日程をこなしたが、それでも精力的に活動したとはお世辞にも言えない。昨年はまずイベリア半島の南端に位置する英領ジブラルタルに姿を現し、原潜の寄港に抗議するスペイン人環境保護活動家らのデモに迎えられた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC

ビジネス

独経済回復、来年は低調なスタートに=連銀

ビジネス

ニデック、永守氏が19日付で代表取締役を辞任 名誉

ビジネス

ドル157円台へ上昇、1カ月ぶり高値 円が広範にじ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中