最新記事

アメリカ

「沈黙」する米潜水艦隊...本誌の調査報道が暴く「不十分すぎる」運用の実体

SUNK COST

2023年5月19日(金)12時30分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

230523p18_SSK_02.jpg

最新鋭原潜のオレゴンは「深窓の令嬢」のように扱われている JOHN NAREWSKIーU.S. NAVY

それでも、いざ戦争ということになれば、米軍はもっと多くの潜水艦を緊急配備できるのか。「イエス」と、この人物は言う。「ただし、ごく短期間になるだろう」

米海軍は22年、2隻の攻撃型潜水艦(オレゴンとモンタナ)を就役させ、就役年数が35年となる2隻を退役させた。現在保有する50隻(その多くは原子力潜水艦だ)のうち、24隻は大西洋艦隊に属し、東海岸のコネティカット州グロトンまたはバージニア州ノーフォークを母港とする。一方、26隻は太平洋艦隊に属し、カリフォルニア州サンディエゴかワシントン州ブレマートン、ハワイ州の真珠湾、またはグアムが母港だ。

むしろ重要なのは対潜水艦戦

技術的な仕様にかかわらず、潜水艦の運用は物理法則と敵の動きにより制約を受ける。また、さまざまな訓練や支援インフラに莫大な投資をしていても、事故は起きる。

例えば21年10月、米軍の原潜コネティカットが南シナ海で未知の海山に衝突し、船員11人が負傷する事故があった。コネティカットは自力でグアムに退避し、その時点で艦長は任務を解かれた。海軍は船体に大きな損傷はなかったとしているが、翌22年にコネティカットが母港から離れることは一度もなかった。

そもそも22年に何らかの海域に配備された攻撃型潜水艦は、全50隻中32隻だけだった。また、その期間は延べ151カ月で、理論的な「就役期間」の25%にすぎなかった。しかも公海に出ていた期間の28%は、アジアやヨーロッパの目的地までの往復に要した時間にすぎない。つまり、実際に前方展開していた期間は108カ月程度だったことになる。

言い換えると、この激動の1年間に配備され、全面的に運用されたアメリカの攻撃型潜水艦は20%以下だったことになる。この割合では、保有艦数を50隻から66隻に増やしても、前方展開される潜水艦は実質4隻しか増えないことになる。

海軍が潜水艦を増やしたい理由は、中国にある。現在、中国が保有するのは、ディーゼルエンジンを使った通常動力型潜水艦が中心で、世界の海に乗り出せる原子力潜水艦の建造を急いでいるとされる。それが実現すれば、インド太平洋地域を航行する商船も米軍の艦艇も、一段と大きな脅威にさらされることになると、米海軍は考えている。

ロシアも同規模の潜水艦戦力を保有しているが、攻撃型原潜はその3分の1程度だ。ロシアと中国の潜水艦の作戦即応性は、アメリカのそれを大きく下回るとみられるが、米海軍は、現在の保有艦数ではアジアとヨーロッパの両方をカバーできないと決め付けている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中