最新記事
アメリカ

中東から始まったアメリカ外交の落日

THE AMERICAN CENTURY ENDS IN THE MIDDLE EAST

2023年5月18日(木)12時20分
トム・オコナー(本誌外交問題担当)

230523p42_CNA_03.jpg

サウジ西部ジッダの王宮でバイデン米大統領を出迎えるムハンマド皇太子(昨年7月15日) BANDAR ALGALOUDーCOURTESY OF SAUDI ROYAL COURTーHANDOUTーREUTERS

サウジアラビアの場合、自律とは資源大国としての影響力を地政学的「資本」に変換することを意味する。昨年10月にはアメリカの原油増産要請を無視する形で、イランやロシアを含むOPECプラス加盟国と共に減産を強行。この動きにアメリカは警戒心を示し、バイデンはそれがもたらす「結果」について警告した。

「アメリカは今も国際社会で唯一の『極』を自任しているが、事実は違う」と、サウジアラビアのエネルギー相の元上級顧問モハマド・アル・サッバーンは本誌に語った。「世界は多極化している。中国、ロシア、アメリカ、EU、そしてサウジアラビア王国もある」

彼らの力の源泉は石油だけではない。イスラム教の2大聖地の守護者として独自の地位を保ち、世界で最も急速に成長している主要経済圏であり、アラブ連盟とイスラム協力機構(OIC)の重要なメンバーだ。

変化は内政面でも進む。サウジアラビアは伝統に固執し、イスラム原理主義を信奉してきたが、ムハンマド皇太子は次の国王として近代化に取り組み、宗教を超えた国民的アイデンティティーの確立を進めている。かつてアメリカはこの変化を認めていたが、次第に疑念を強めている。

アメリカの「威圧的で一方的な政策の追求」は「自国と自国の主権に誇りを持つ国には通用しない」と、サッバーンは言う。「サウジアラビア王国は国益、特に経済的・政治的国益に基づいて決定を下す。他者の意見や押し付けは考慮しない」

サッバーンは同国の経済的・地政学的「多様化」を皇太子の改革計画「ビジョン2030」と直接結び付けた上で、こう主張した。「私たちが他者の利益を尊重するように、誰もがサウジアラビア王国の国益を尊重しなければならない。いかなる国も国際社会におけるサウジアラビア王国の決定に干渉すべきではない」

「冷戦に勝った」という誤解

旧ソ連の崩壊から30年超、中東やその他の地域で起きている最近の出来事は、軍事・経済・文化の力を兼ね備えたアメリカの魅力が世界で失われてきている証左だと、一部の外交専門家は懸念を表明する。「現在のアメリカが世界に示しているモデルは、1991年当時ほど魅力的ではない」と、最後の駐ソ連米大使ジャック・マトロックは言う。

1956年に外交官のキャリアをスタートさせたマトロックは、世界中で自己主張を強める中国の成功について、米外交の「軌道修正につながる真剣な自己洞察のきっかけにすべきだ」と本誌に語った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中