最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ、反攻のカギは「最初の24時間」にあり──消耗戦の泥沼を回避する唯一の道とは

Ukraine's Longest Day

2023年4月25日(火)12時10分
フランツシュテファン・ガディ(英国際戦略研究所上級研究員)

230502p38_UNA_02.jpg

昨年9月のハルキウの戦いでロシア軍から奪った戦車を走らせるウクライナ軍の兵士 SCOTT PETERSON/GETTY IMAGES

昨年9月の「ハルキウ(ハリコフ)の戦い」がまさにそうだった。ウクライナ側は事前に砲撃で圧力を加え、突撃の準備をしていた。それにはロシア側も気付いていた。しかし意表を突いた攻撃で戦術的サプライズを与え、数的な優位も見せつけると、ロシア側はパニックに陥り、指揮命令系統が麻痺してしまった。

こうなると、ロシア側は後方に待機している部隊を迅速に前線へ送り込むこともできない。結果、ウクライナ側は約6000平方キロ以上の土地を、わずか10日で取り戻せた。決め手は最初の24時間だった。先手を取って前線を突破したからこそ、ロシア側は混乱し、パニックに陥った。来るべき春の反転攻勢でも、ウクライナ側は「ハルキウの戦い」の再現を目指しているはずだ。

とにかく緒戦で戦術的サプライズを勝ち取ること。これが死活的に重要だ。これができれば、少なくとも短期的には、戦場での火力や兵員数で優位に立てる。

反転攻勢の準備を、ウクライナ側が隠す必要はない。偵察衛星の画像があり、安価な無人機が戦場を飛び回っている今の時代に、軍隊の集積を隠せるわけがない。大事なのは反転攻勢の時期と地点を隠し通し、ロシア側の兵力を分散させることだ。

また突破口の選定に当たっては、そこから速やかに戦線を広げて敵陣深く入り込めるよう、主要道路や交差点、鉄道の分岐点などを確保する方法まで準備しておきたい。

もちろん、最初に必要なのはロシアの重層的な防御網を突破することだ。ウクライナ軍の情報分析官が筆者に語ったところでは、同国南部を支配するロシア軍は地雷を敷き詰め、「竜の歯」と呼ばれるピラミッド形のコンクリートブロックや、戦車の進撃を阻む溝や壕、塹壕などを至る所に配置している。またハルキウやへルソンでの敗北に学び、今は前線を縮小し、兵員の集積度を高めている。

これだけの防御網を一撃で破壊できるほどの火力を、ウクライナ側が用意するのは不可能に近い。ロシア軍の陣地を素早く制圧するに足る兵力を投入することも難しい。

激しい砲火を浴びながら敵の重層的な防御網を破壊し、進撃するのは至難の業だ。戦車や装甲車両が前進できるように地雷を除去し、「竜の歯」や落とし穴を破壊するには、いずれも専門的な機材と高度な技術が必要になる。

だから成功への近道は、ロシアの守備隊が自らの陣地を放棄して逃げ出すように仕向けること。自分たちが孤立し、包囲されるという恐怖を抱かせ、ロシア兵にパニックを起こさせることだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中