最新記事
北朝鮮

「トイレは地獄」「最悪」...金正恩ご自慢の「平壌タワマン」に致命的な問題が

2023年4月5日(水)18時02分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
平壌市民と金正恩の記念撮影

平壌の集合住宅の完成セレモニーで、市民と記念撮影をする金正恩(2022年4月) KCNA via REUTERS

<北朝鮮の中では裕福な生活を送っているはずの首都・平壌市民であっても、現在の厳しい国内事情ゆえに豊かとは程遠い生活を余儀なくされている>

他のどの地方よりも豊かな暮らしを享受している北朝鮮の首都、平壌の市民。しかし、それはあくまでも、北朝鮮の国内での相対的な話だ。

国営メディアに登場するタワマンも、エレベーターは朝夕の2時間だけしか使えない。「タワマンぐらしは辛い」との悪評を打ち消すために、当局は一部期間に限り、午前5時から午後11時までエレベーターを稼働させることにしたが、その電気代は入居者から徴収される。

しかし、最近はそれすらできないほど電力事情が悪化しているようだ。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

特権層が多く住む、平壌中心部の中区域の住宅では先月、電気が供給されたのは1日平均4時間ほどだった。他ののエリアは、区域内の重要機関の有無によって異なるが、せいぜい1時間から1時間半程度。10分だけ供給された日もあったとのことだ。

また、街路灯が点灯するのも、午後8時から11時まで。ただし、故金日成主席と故金正日総書記の銅像など「重要」とされるものは、どれだけ電力事情が悪くとも、煌々と照らされ続けている。

昨年4月に完成した松新(ソンシン)・松花(ソンファ)地区のタワマン団地では、ほとんど電力供給が行われないため、水道水を組み上げるポンプが稼働せず、水が出るのは2〜3日に1回だけ。結局、地上にある水道まで行って水を汲み、運び上げなければならない。

(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設...でもトイレ最悪で死者続出

飲み水の確保や煮炊きでの不便もさることながら、「トイレの問題が最悪だ。高層階は停電すると、まるで地獄だ」との証言が、タワマンの住人からはよく聞かれる。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

参考までに、松花通りのタワマンと同じ高さの「あべのハルカス」(大阪市)の階段は、1600段以上だ。水の入った重いバケツを持って登るのは相当な苦行と言える。

高齢者は外出できず窓から外を眺めるだけ

ただ、数十階まで運ぶのが大変だからと、窓に滑車をひっかけてロープの先にバケツを結びつけて地上まで下ろして引っ張り上げる方式を使っている。引き上げる途中でバケツがひっくり返り、通行人の頭上に水が降り注ぐ事故が何件も発生し、信訴(告発)が相次いでいるという。

そんな状況で、高層階の住人、特にお年寄りは外出もままならず、窓から外の様子を眺めるしかない。

コロナ前の2019年には、市内中心部で1日5時間、郊外で1〜2時間程度、電力供給が行われていたが、当時より状況が悪化している。そんな状況でも、電気料金はしっかり徴収されるため、市民の不満は高まっている。

今回の停電について、情報筋は原因を明らかにしていないが、考えられることが大きく分けて2つある。

まず、平壌には北倉(プクチャン)火力発電所など、複数の発電所から電気が供給されているが、何らかの理由でトラブルが発生したということだ。昨年末、国のノルマを無理やり達成するために、強引に運転を続けたせいで事故が起きてしまい、しばらく使えない状態となってしまった。

もう一つは、春の少雨だ。朝鮮半島北部は元々、雨量の少ない地帯。そのため、水力発電所が満足に稼働できず、電力需要を満たせないというものだ。さらに、発電設備の老朽化も、上記2つと合わせて深刻な問題となっている。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



ガジェット
仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、モバイルバッテリーがビジネスパーソンに最適な理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:「AIよ、うちの商品に注目して」、変わる

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 A

ビジネス

ANA、国内線65便欠航で約9400人に影響 エア

ワールド

アングル:平等支えるノルウェー式富裕税、富豪流出で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中