NATO加盟で必要となる、フィンランドの新しい「国家の物語」
NATO’s Finnish Expansion
エルドアン大統領(右)と協議したフィンランドのニーニスト大統領(3月17日) PRESIDENTIAL PRESS OFFICEーREUTERS
<ロシアと西側との間で慎重なバランスを取ってきたフィンランド。しかし、軍事的中立を捨てることで「アイデンティティクライシス」に>
ロシアのウクライナ侵攻に危機感を覚え、フィンランドがNATO加盟申請を行ってからおよそ10カ月。3月30日にトルコ議会が加盟を認める法案を承認したことで、フィンランドの加盟が決定した。
ハンガリーとトルコの反対により承認は遅れ、同時に加盟申請したスウェーデンはまだだが、ひとまずフィンランドが西側軍事同盟の31番目の加盟国となることが確定した。そして、フィンランドが数十年来守ってきた軍事的中立を捨てることも。
ロシアと約1300キロに及ぶ国境を接し、「フィンランド化」と称される中立外交に象徴されるようにロシアと西側諸国の間で慎重なバランスを保ってきたフィンランドにとって、NATO加盟は一大事だ。
と同時に、ロシアが一線を越えたときのためのいわゆる「NATOオプション」を着々と準備してきた安全保障政策の集大成ともいえる。
昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻まで、フィンランドは長年、軍事的非同盟に満足していた。ロシアと経済的・外交的関係を保つ最善のシナリオを信じつつも、最悪のシナリオも想定していた。
「ロシアの侵攻がなければNATO加盟は考えなかっただろう」と、アレクサンデル・ストゥブ元首相は言う。
「一夜にしてとは言わないが、数日にして世論が一変した。恐怖もあるが、現実主義的でもある。あんなふうに(ロシア大統領ウラジーミル・)プーチンが無実のウクライナ人を虐殺できるのなら、フィンランド人に同じことをしない保証はないだろう、と」
ストゥブが率いた中道右派の国民連合党は、NATO加盟を主張してきた数少ない政党だが、今やサンナ・マリン首相の与党・社会民主党はじめ主要3政党が漏れなく加盟を支持する。それだけに、4月2日のフィンランド議会選挙の選挙戦でも、NATO加盟は争点にすらならなかった。
国家観の再構築が必要
中立を貫いてきたとはいえ、フィンランドはゆっくりと確実に西側の安全保障・軍事的枠組みに統合されつつあったと、安全保障専門家らは分析する。1995年にはEUに加盟し、2014年のロシアのクリミア併合後は欧州への傾斜をさらに強めた。
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