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条約違反には躊躇しつつも、プーチンの挑発が止まらない

Putin’s Newest Provocation

2023年2月27日(月)12時57分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

「最悪のシナリオ」を懸念

それでも軍拡競争は大部分、不確実性と不安に駆り立てられている。現地査察による確認ができなくなれば、軍高官や保守系の情報アナリストや兵器ロビイストは「最悪のシナリオ」を提示しかねない。

ロシアがミサイルに核弾頭を最大限搭載し、追加のミサイルもひそかに配備しているのではないかという臆測が始まり、引けを取っている「印象」を与えないようアメリカも対抗するべきだと主張する。

そんなことは愚行だろう。たとえロシアが実際に核軍備を拡大するとしても、アメリカまで同じように資金を無駄にする必要はない。

だがアメリカは対抗するかもしれない。1970年代、米国防総省は、アメリカは核軍備がロシアと厳密に同等かどうか客観的には重要でないが、同等だという「印象」を維持しなければならないと断言した。以後この方針は変わらないままだ。

こうした悲観論が早くも定着し始めている。ロシアが今後の現地査察をめぐる2国間協議を中止したのを受けて、米国務省は今年1月の報告書でアメリカは「ロシアが新STARTの規定を遵守すると保証できない」と断言。

これを受けて、下院軍事委員会のマイク・ロジャーズ委員長(共和党)は、米軍上層部は「ロシアが新STARTの制限に違反しているか違反する可能性を想定する必要がある」と主張した。

ロジャーズや米軍幹部の一部が、アメリカも新STARTの上限規制を破ることを提案する可能性は考えられる。いずれにせよ、プーチンとロシア軍幹部はそれを想定するだろう。各種の核制限条約が結ばれる前の50~60年代、双方が「最悪のシナリオ」を分析し、それに応じて核軍備を増強した。両国の指導者たちが無節操に振る舞えば、暗黒時代に逆戻りしかねない。

プーチンがこのような挑発に踏み切るとは驚きだ。ロシアの経済も軍産複合体も通常兵器による戦争を国境で続けるのがやっとで、新たな核軍拡競争など無理だと彼は承知しているはずだ。

自分が核軍拡で何か動けばアメリカも対抗することも分かっている。米議会は昨年12月、超党派の圧倒的多数の賛成で国防費を大幅に増額する予算案を可決。

予算案には「核のトライアド(大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射ミサイル、戦略爆撃機の3本柱)」全ての新兵器の開発費も含まれる。ロシアが新STARTを遵守していないと国務省が断言する前の話だ。

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