少女は赤ん坊を背負いながらコバルトを掘る──クリーンエネルギーの不都合な真実

CLEAN ENERGY’S DIRTY SECRET

2023年2月8日(水)12時49分
シダース・カラ(イギリス学士院グローバル・プロフェッサー)

230214p44_CBT_02.jpg

コルウェジとルブンバシを結ぶ幹線道路脇のボタ山。この辺りは豊かなコバルト産地だが、人々の暮らしは貧しい MICHAEL ROBINSON CHAVEZーTHE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

ずっしりと重く、表面はごつごつしており、青緑と空色が交じった美しい色と、銀色の斑点、それにオレンジと赤のまだらで彩られている。コバルトとニッケルと銅の色だ。

コバルトは皮膚に触れたり吸い込むと有害だが、手掘りで採掘する人々にとって最大の心配の種ではない。鉱石には放射性のウランが少しだけ含まれることもある。

私は石を地面に落とし、フィリップの後から採掘場に入っていった。採掘している人々が物珍しそうな視線を送ってくる。奥に進むと、泥とほこりにまみれた8~35歳の6人の男性グループに出会った。

「ジャンボ」とフィリップは挨拶した。ジャンボはスワヒリ語で「こんにちは」を意味する言葉だ。「ジャンボ」と男たちも返した。

男たちは直径6メートル、深さ5メートルほどの穴の中で作業していた。男の子たちは小さいショベルで地表の近くを、大人は粘土のような堆積物を深く掘り返している。穴の底には深さ30センチほどの赤銅色の水がたまっている。

最年長の男はフォースタンといった。彼は痩せて鍛えられた体の持ち主で、プラスチックのサンダルとオリーブ色のズボン、薄茶のTシャツに野球帽を身に着けていた。

貧困の悪循環を生むシステム

フォースタンは日頃、弟と義理の弟、妻、いとこ、3人の子供と一緒に働いていると言う。彼らは毎日、泥や土やヘテロゲン鉱を掘り起こしては大きな麻袋に詰める。

袋にたくさん詰められるよう、大きな岩は金属製の槌で小石サイズに割る。袋がいっぱいになると近くの池に運び、中身を金属製のふるいにかける。選別されたヘテロゲン鉱は元の袋に戻される。

「一日が終わる頃には、ヘテロゲン鉱の袋が3つ出来上がる」と、フォースタンは言った。「私たちはそれをKICOの近くまで運ぶ。そこには仲買人が来る。私たちは仲買人にコバルトを売り、彼らは袋を集積場に運び、そこで売り払う」

「自分たちでコバルトを集積場まで運ばないのはなぜ?」と、私は尋ねた。

「バイクがないからだ。自分で集積場まで運ぶ採掘屋もいるが、これは危ない。コンゴでは鉱石を運ぶのに許可が要る。もし許可なく鉱石を運んでいるところを警察に見つかったら逮捕されてしまう」と、フォースタンは説明してくれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中