最新記事

東南アジア

デジタル監視システムでおとり捜査は不要? 汚職操作めぐり賛否渦巻くインドネシア

2023年1月24日(火)11時20分
大塚智彦

こうした良識派としての一面がある一方、最近は中国の経済支援やインフラ支援をバックアップするなど親中姿勢を強めている。また、発言には一貫性をかけることも目立ち、ジョコ・ウィドド大統領のコントロールが及ばないのではないかとの見方もでている。

パンジャイタン調整相は「囮捜査」批判の最大の理由として「どんなに囮捜査をしたところで汚職率は依然として高く、囮捜査は汚職犯罪の抑止力として機能していない」と言うが、この理屈は誰がどう考えても首をかしげざるを得ない。そのため人権団体や反汚職を掲げる団体からの批判を招いているのだ。

KPKが反論するが、政界は......

こうしたパンジャイタン調整相の度重なる「囮捜査」批判や「国家の威信、信頼を損ねる」などという批判理由に、これまで沈黙を守ってきたKPKがついに反論を開始した。

1月18日にKPKのアリ・フィクリ報道官は「そのような捜査(囮捜査)を回避する唯一の方法は汚職を犯さないことだ」と強調。短いが至極当然の反論には人権団体や反汚職団体から拍手喝采で迎えられた。

KPKはさらに「囮捜査は十分な事前捜査の結果であり、汚職の容疑が濃厚になった場合の最終的な犯罪容疑確定の手法としてのみ実施しており、現行犯逮捕、証拠保全を目指したものである」と述べ、現職閣僚による「囮捜査」批判を厳しく、理路整然と批判し返したのだ。

ここで述べられた反論は、ごく当然で当たり前の内容であり、これを理解しない調整相の「良識」を改めて疑うものだった。

KPKは2003年に独立の英雄であるスカルノ初代大統領の長女で第5代メガワティ・スカルノプトリ元大統領時代に政府の肝いりで創設された機関で、1998年に崩壊したスハルト長期独裁政権時代の悪弊である汚職の一掃を目指した組織として国民の期待と信頼を集めている。

一連の「囮捜査」批判にジョコ・ウィドド大統領は賛否の立場を明確にすることなく公式には沈黙を守っている。さらに他の閣僚、国会議員らも沈黙を守っているのは「囮捜査」への言及がブーメランとなって自身に「汚職容疑」となって戻ってくることへの警戒があるとみられている。

こうした大統領以下の政治家たちの姿こそ、インドネシアの汚職の底知れぬ深さを物語っていると言えるだろう。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

衆院選きょう投開票、自民が終盤まで優勢 無党派層で

ワールド

イラン、中東の米軍基地標的に 米が攻撃なら=外相

ワールド

米、対インド25%追加関税撤廃 貿易の暫定枠組み公

ワールド

ウクライナのエネ施設に大規模攻撃、無人機400機以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本版独占試写会 60名様ご招待
  • 4
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 5
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 6
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 7
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 8
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 9
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中