最新記事

ウクライナ戦争

熱湯の食事を「2分で食え」、缶詰のような収容所...ウクライナ人捕虜、飢餓・拷問・洗脳の実態

HUNGER IS A RUSSIAN WEAPON

2023年1月17日(火)21時35分
マイケル・ワシウラ(本誌記者)
ウクライナ兵

捕虜交換で解放され救急隊員の肩を借りて歩くウクライナ兵(北部チェルニヒウで、昨年9月) PRESS SERVICE OF THE STATE SECURITY SERVICE OF UKRAINE-REUTERS

<その人数も処遇も、誰にも分からない。ロシアが捕虜としたウクライナ兵に何をしているのか。帰還兵に聞いた>

いったいどれだけのウクライナ人がロシア側の「捕虜」となっているのか。その数は誰にも分からない。

国連などの国際機関も、現状では捕虜の収容施設にアクセスできていない。だから捕虜の数や処遇、健康状態に関する具体的な情報は、両国間の捕虜交換で解放された数少ない兵士たちから聞き取るしかない。

そこで本誌は、捕虜となったウクライナ兵の親族2人と、昨年11月に捕虜交換で解放された兵士1人に話を聞いた。

この兵士は東南部の要衝マリウポリで、今や有名なアゾフスターリ製鉄所に立てこもり、ロシアの精鋭部隊を相手に82日間も抵抗を続け、5月16日に投降したアゾフ大隊の生き残りだ。

3人は口をそろえて、戦争捕虜に対する深刻な虐待が組織的に行われていると非難した。だが今は、誰もそれを止められない。

アゾフスターリの防衛隊がロシア軍の精鋭部隊に対峙し、彼らを南部戦線に引き付けていなかったら、首都キーウ(キエフ)は占領されていたかもしれない。これは多くの専門家が認めるところだ。

だが3カ月近い激闘で彼らが失ったものは大きい。しかも最後まで生き残り、投降した260人余のウクライナ兵にはさらに苛酷な収容所の日々が待っていた。

「捕まっている間に体重が30キロも落ちた」

半年ぶりに解放されたドミトロはそう言った。

「捕虜には1日3食というのが建前だった。しかし食べる時間が与えられなかった。食堂に一度に200人も集め、2分間で食えと言われた。熱湯を張ったどんぶりにジャガイモ1個とキャベツ1枚が入ったやつだ。急いで残らず食おうとすれば口の中をやけどする。ふうふう言って冷まそうとすれば、食べる時間がなくなる」

しかも、とドミトロは言う。「2分がたつと、奴らは残り物を全てぶちまけるんだ」

【動画】拷問を受け、折れた腕が不自然に曲がったウクライナの帰還兵

「オイルサーディンの缶詰」

ドミトロが入れられたのは、ロシア支配下のウクライナ東部ドネツク州オレニフカ近郊にある収容所。昨年7月29日に建物の一つで原因不明の爆発があり、少なくとも数十人のウクライナ人捕虜が死亡したと伝えられる。

しかしドミトロが言うような環境だったとすれば、死者数はもっと多いと考えるべきだろう。

「もともと200人収容の兵舎だった建物に、私らは750人も詰め込まれた。どこの建物も似たようなものだった」

オイルサーディンの缶詰を想像してくれ、とドミトロは続けた。

「コンクリートむき出しの床に、ぎっしり700人が並べられた。1人が寝返りを打とうとすれば、みんなが同じようにしなければならない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ財務省、今年の経済成長率予想を2.2%に小幅上

ビジネス

中国製造業PMI、7月は49.3に低下 4カ月連続

ワールド

米、カンボジア・タイと貿易協定締結 ラトニック商務

ワールド

交渉未妥結の国に高関税、トランプ氏が31日に大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中