最新記事

ウクライナ戦争

熱湯の食事を「2分で食え」、缶詰のような収容所...ウクライナ人捕虜、飢餓・拷問・洗脳の実態

HUNGER IS A RUSSIAN WEAPON

2023年1月17日(火)21時35分
マイケル・ワシウラ(本誌記者)

230124p24_KGA_02.jpg

壮絶な立てこもりの舞台アゾフスターリ製鉄所付近の衛星画像 ©2022 MAXAR TECHNOLOGIES

そんな状況で、ドミトロは1人の年長の捕虜が衰弱死するのを見た。つい最近までは元気な若者だった兵士たちも、見る影もないほどに痩せ衰えていった。

「とにかく体力を使わないようにした。みんな衰弱していた。少しでも横になり、寝ていたかった」

しかし、中には志願して収容所の外での作業に加わる者もいた。ロシア側に寝返り、マリウポリの前線に戻る者も。

「あるとき、連中は捕虜700人の名前を読み上げ、『おまえたちが壊した町だ、おまえたちの手で再建しろ』と命じた。この700人にはシャベルが渡され、マリウポリ包囲戦の最中に市民が埋めた(民間人の)遺体を掘り起こす作業をやらされた。そうやって、奴らは自分たちの戦争犯罪の痕跡を消そうとした」

それでもドミトロ自身は、さほど手荒な扱いを受けずに済んだという。マリウポリで捕虜になった時点で、既に負傷していたからだ。

傷は癒えず、ろくな食事も与えられず、環境は劣悪だったから症状が悪化し、彼は病院に移された。

ドミトロの入院中、捕虜仲間の1人がロシア領内にあるタガンログ収容所に移送された。2カ月後に戻ってきたとき、彼はドミトロに言った。

「なあ、ロシアの収容所に比べたらオレニフカは天国だぞ。向こうでは1日に3回殴られた。卵をぶつけられ、電気ショックの拷問も受けた」

ちなみにドミトロによれば、オレニフカで「殴られるのは反抗的な人間だけ」だったそうだ。

病院で手術を受け、かえって症状が悪化したドミトロは、扱いにくいから捕虜交換の対象になった。

「あのときは100人ほど解放されたが、自力で歩けない人が多くてね。救急車が10台も来て、それぞれが重傷者を3人か4人、乗せていた」

こうして解放された兵士は、大抵の場合、今も捕虜となっている人たちの家族を支援する活動に従事している。その受け皿になっているのが戦争捕虜の家族会だ。

その1つを立ち上げたのがナタリア・エピファノワ。ロシアの軍事侵攻が始まってすぐ、甥が捕虜となった。

「あの子は兵役に服していたけど、戦場に立つ気はなかった」とエピファノワは言う。

しかしロシア軍が国境を越えた「2月24日にはマリウポリにいて、3月25日には戦場で行方不明になったと知らされた」。

それで彼女はメッセージアプリのテレグラムでグループをつくり、マリウポリで戦う兵士たちの家族が情報をシェアできるようにした。

すると、「5月にある将校から連絡があり、甥はロシア軍の捕虜になったと教えられた。でも詳しい状況は不明。ただ彼が連れ去られるのを見た兵士がいるというだけだった」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の

ビジネス

アマゾン、豪データセンターに5年間で130億ドル投

ワールド

イラン世界最大級ガス田で一部生産停止、イスラエル攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中