最新記事

人権問題

ロヒンギャ難民船がインドネシアに相次ぎ漂着 ミャンマー脱出後各地で苦難続く

2022年12月27日(火)13時40分
大塚智彦
漂着したロヒンギャ難民の乗っていた船

25日にインドネシア・アチェ州に漂着したロヒンギャ難民の乗っていた船。Antara Foto Agency - REUTERS

<ミャンマーのクーデター、ウクライナ戦争の影で、ロヒンギャは今も流浪を続けて──>

ミャンマーの少数民族でイスラム教徒が多数を占めるロヒンギャ族は、アウン・サン・スー・チー率いる民主政府時代から抑圧、弾圧を受け、国際的な人権問題として注目を集めた。その後、2021年2月のクーデターで実権を掌握した軍事政権も敵視政策を続けて攻撃を続行し、ロヒンギャ族の多数が隣国バングラデシュに避難して難民化している。その数は約100万人ともいわれている。

その後現在に至るまでもミャンマーからバングラデシュへの避難の動きは続いている一方、バングラデシュの難民キャンプからよりよい環境、生活を求め粗末な船で海路を脱出する事例も相次いでいる。

ロヒンギャ難民の粗末な船はマレーシアやインドネシアに漂着するケースが多く、両国では一応人道的見地や国連の要請に基づき難民を保護しているが、上陸後も収容施設で「軟禁」や「隔離」が続くなど厳しい状況が続いている。

アチェ州に57人が漂着

12月25日、インドネシア・スマトラ島最北部にあるアチェ州ラドング村の海岸沖を1隻の木造船が漂流しているのを同村の漁民が発見し、海岸に手繰り寄せて乗っていた男性ばかり57人を救出した。

駆け付けた地元警察によると男性たちはミャンマー西部ラカイン州などに元々居住していたロヒンギャ族として捜査を始めた。

その結果、57人はミャンマーからバングラデシュに避難し、国境に近いコックスバザールにある難民キャンプに収容されていた人々であることが所持していたIDカードや証言からわかったという。

彼らは11月28日にバングラデシュを木造船で出発、ベンガル湾、アンダマン海、マラッカ海峡を経由してマレーシアへの上陸を目指していた。しかし途中でエンジンが故障して約1カ月の間海上を漂流し、アチェ州沖に到達したところで救助されたという。

漂流中に飲料水や食料は底をつき厳しい状況に追い込まれていたということで、アチェ上陸後4人が脱水症状のため近くの病院に搬送されて治療を受けている、と地元メディアなどは伝えている。

歴史的に差別を受けるロヒンギャ族

ロヒンギャ族はミャンマー西部のラカイン州に多く居住するが、仏教徒が多数派のミャンマーでイスラム教徒が多いロヒンギャ族は常に差別、迫害、人権侵害の対象だった。

それはアウン・サン・スー・チーの民主政権の時代も変わらず、政府はロヒンギャ族をそもそもバングラデシュからの違法移民だとしてロヒンギャという名称を避け「ベンガル人」を意味する「ベンガリ」と呼び、ミャンマー国籍も与えず、移動の自由も制限してきた。

2016年10月にラカイン州で武装勢力が警察署を襲撃、警察官9人が殺害される事件が起きた。ミャンマー軍は反撃して実行犯とされるロヒンギャ族8人を殺害するとともにロヒンギャ族の過激派組織が関与していたとして過激派掃討の名目でロヒンギャ族への攻撃を激化させた。

戦火を逃れるためロヒンギャ族の住民は国境を越えて隣国バングラデシュに避難を本格化させ、約70万人がバングラデシュ国内のコックスバザール周辺に点在する難民キャンプに収容された。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「ミャンマー国内でロヒンギャ族に対するジェノサイド(民族浄化)が行われている可能性がある」として国際的調査団の派遣を求めたが、スー・チー最高顧問兼外相は「民族浄化が行われているとは思わない」「ロヒンギャ族難民がミャンマーに戻ってくるなら危害を加えられることはない」として調査団の入国を拒否した。

しかしミャンマー軍の弾圧に苦しんだ経験や国籍が保障されないことなどからミャンマーへ帰還するロヒンギャ族難民はほとんどいなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

メルセデス、中国パートナーとの提携に投資継続 「戦

ビジネス

日経平均は大幅反落800円超安、前日の上昇をほぼ帳

ビジネス

焦点:国内生保、24年度の円債は「純投資」目線に 

ビジネス

ソフトバンク、9月30日時点の株主に1対10の株式
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中