最新記事

米政治

「赤い州」テキサス州に異変あり!? 激化する社会の分断と米中間選挙

A DIVIDED RED STATE

2022年11月9日(水)10時45分
前田 耕(ノーステキサス大学政治学部准教授)

NW_TXR_03.jpg

今年5月に銃乱射事件が起きたテキサス州ユバルディの小学校に通う子供の多くはヒスパニック系だった VERONICA G. CARDENAS-REUTERS

新住民が増えているということは、伝統的なテキサス人の割合が低下しつつあるということである。白人に共和党支持者が多いのはアメリカ全体の傾向だが、同じ白人でも、州外から入ってきた新住民は伝統的なテキサス人よりも共和党支持の割合が低い。

共和党が圧倒的に強かったテキサス州で近年民主党の支持が増えてきている理由の1つは、この人口構成の変化である。民主党の支持が拡大しているとは言っても、州政府は共和党が完全に握っている。

今年の中間選挙で改選される州知事・副知事などの公選7職はまた共和党が独占するだろうと予想されている。州議会の上下両院における共和党多数も全く揺るぎそうにないし、州の最高裁判事も9人全員が共和党だ。

特に地方選挙では現職候補が有利なので、政党の勢力比が変わってもそれが選挙結果に表れるまでには時間がかかるのである。民主党支持者が増えているなか、共和党政治家たちがその支持を得ようと中道寄りになっているかというと、むしろ逆で、近年のテキサス共和党はさらにその保守色を強めている感がある。

今年新しく採択された綱領の中で、州の共和党は同性愛を「異常なライフスタイルの選択」(an abnormal lifestyle choice)だと規定した。

人工妊娠中絶についても、昨年9月に施行された州法で、胎児の心拍が確認できるようになって以降(およそ妊娠6週目)は禁止とされたし、今年6月に連邦最高裁判所が妊娠中絶の権利についての過去の憲法判断を覆したのを受けて、8月からは母体の命を助けるため以外の中絶は全面禁止になった。

銃規制も非常に緩い。昨年9月からは、犯罪歴など一定の基準をクリアした21歳以上なら誰でも、免許も訓練もなしに拳銃を他人から見える状態で携帯して(例えばベルトに付けたホルスターに入れて)外を歩けるようになった。

その数年前まで、「訓練を受けて銃を持っている人が大勢いれば街の平和が保たれる」と主張していた人々が、訓練も不要と急転換したのだ。ちなみに世論調査では州民の6割がこの案に反対していた。

私が勤務する大学でも16年以来、他人から見えない状態(例えば衣服の下やカバンの中)で銃を所持する免許を持った人ならば、拳銃を大学構内に持ち込むことができるようになった。教員の大多数はそのルールに猛反対だったが、州法の定めにより州立大学はそれを受け入れる以外になかった。

自分が教室で向かい合う学生が銃を持っているかもしれないと思うと怖くもあるが、どうせ考えても無駄、もう慣れた、というのが本音である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死

ワールド

米英、シリア暫定大統領への制裁解除 10日にトラン

ワールド

米、EUの凍結ロシア資産活用計画を全面支持=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中