最新記事

ウクライナ情勢

プーチンも困っている、コントロールの効かない国内強硬派──分岐点は動員令だった

Why Putin Is Escalating the Bombings

2022年10月26日(水)12時15分
ラビ・アグラワル(フォーリン・ポリシー誌編集長)

221101p34_RQA_03.jpg

モスクワで行われた予備役動員への抗議集会に参加して警察に拘束されるデモ参加者 REUTERS

10月14日に(カザフスタンで)行った記者会見でも、プーチンは実にリラックスし、自信に満ちていた。少なくとも、そう見せた。彼の頭の中まではのぞけないが、権力基盤に不安なしという感じで振る舞っていた。今はまだ、彼に取って代われる人物がいないという事情もあるだろう。

しかしプーチン政権の安定性に関する評価は、こうした見た目だけで決まるものではない。この戦争を始める前に比べれば、プーチンの権力基盤は格段に弱まったと言えるのではないか。

動員令を出してからは、さらに弱まった。あれが分岐点だった。あの瞬間、ロシア社会は今も「平時」にあるという従来の言説が通用しなくなった。

プーチンは今も、自分に取って代われる人物はいないと考えているだろう。しかし独裁政権というものは、実際に崩壊するまでは安定しているように見えるのが常だ。個人に権力が集中した体制では、政治的な変化が何の前触れもなく起きやすい。

他国の指導者の退陣や失脚のタイミングを正確に予測するのは難しい。その影響を評価するのも難しい。しかし、そうした政変の可能性が高まっているのなら、それを警告するのが情報機関の役目だ。

プーチンに関して言えば、彼に不利な条件は整ってきた。時期は分からないが、リスクは高まっていると言える。

――おっしゃるとおり、プーチンの頭の中までは見えない。しかし、彼にはどんな選択肢があるのだろう? 今はとにかくウクライナ人に痛い思いをさせようとしているが、ほかにも手はあるのか。

これ以上にウクライナの占領地を失うことなく、この冬を乗り切る。プーチンはそれを最優先にしている。

――ここまではロシアの話をしてきたが、次はウクライナとその選択肢についてだ。あなたは最近、ウクライナを訪れてウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会い、ロシア兵による民間人虐殺のあったブチャなどを視察した。何か意外な発見はあったか。

3週間ほど前のことで、もう昔のことのように思えるが、いくつか印象に残った点がある。まず、私はウクライナへの軍事物資供給の拠点となっているポーランドの基地を訪れた。そこの稼働率は、せいぜい60%程度だった。

つまり、軍事物資の支援に関して、ウクライナの同盟諸国はもっと多くのことをやれるだろう。私はそういう印象を持った。

2つ目は、ウクライナ社会の強烈な回復力についてだ。世論調査を見れば、ウクライナ国民の大半が自分たちの勝利を信じていること、いかなる領土の割譲にも応じるつもりがないことは分かる。しかし現地に足を運ぶと、また違った面が見えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中