最新記事

動物

上野動物園のもう一つの使命 30年以上続く「ズーストック計画」とは?

2022年10月14日(金)11時30分
※TOKYO UPDATESより転載
ジャイアントパンダの双子、レイレイ(左)とシャオシャオ(右)

2021年に生まれたジャイアントパンダの双子、レイレイ(左)とシャオシャオ(右)。

<1882年に創設され、日本で最も古い歴史を誇る上野動物園。国内外問わず多くの人に親しまれ、開園140周年を迎えた。この日本を代表する動物園で30年以上にわたって続けられているのが、「種の保存」の取り組みだ>

1989年から始まったズーストック計画とは

2021年、ジャイアントパンダの双子、シャオシャオとレイレイが誕生したことでも大きな話題となった東京都恩賜上野動物園(以下、上野動物園)。144,000平方メートルの敷地に約300種3,000点を飼育し、日本を代表する動物園として知られている。

上野動物園ではさかのぼること1989年、東京都が策定した「ズーストック計画」に基づいて、国内外の法律で保護されている種や減少している野生動物種の保全のために、飼育・繁殖に取り組み続けていることをご存じだろうか。「ズーストック計画」とは都立動物園が飼育展示する動物の一部を対象に、種の保存と個体群の維持を目的に計画的繁殖をする施策。この計画は、SDGsの17の目標の中で、「14海の豊かさを守ろう」「15陸の豊かさも守ろう」と掲げられている、生物多様性を保全する世界的なアクションと同調するものだ。どんな取り組みなのか、同園で教育普及課長を務める大橋直哉氏に話を聞いた。

「そもそも動物園には動物を楽しく見ていただくレクリエーションの場としての側面のほかに、『種を守る』という役割があります。園で飼育している動物を絶やさないよう、繁殖には力を入れてきました。1989年の第1次ズーストック計画では個体数を増やすことに主眼が置かれていたのに対し、2018年に策定された第2次ズーストック計画では、個体数の偏りが出ないよう、より適正な管理の下で計画的に繁殖させ、全国の動物園と連携して種の保存に努めています」

tokyoupdates2210_ohashi.jpg

都内で複数の動物園での勤務を経て現在、上野動物園の教育普及課長を務める大橋直哉氏。Photo: Kenichi Fujimoto

動物園・水族館で飼育している動物が国内で初めての繁殖に成功した際に、公益社団法人日本動物園水族館協会が授与する「繁殖賞」で、上野動物園は146件の受賞を果たしており、これは日本最多だ。ジャイアントパンダをはじめ、繁殖が難しいとされるスマトラトラやアイアイなどは飼育係の経験と情熱にも支えられて出産に成功している。「パンダは基本的に単独で生きる動物であることに加え、メスがオスの交尾を受け入れる時期が1年に1日か2日しかない。これを見極めて同居させなくてはなりません。無事に子どもが生まれても、双子の場合、親だけでは十分なケアができないため、24時間付きっ切りで母乳と人工ミルクを交互に与える必要があり、産後しばらくの間はスタッフも泊まり込みで世話をします」

tokyoupdates2210_ayeaye.jpg

アイアイは夜行性のため、昼夜を逆転させた建物内で展示されている。

園のゴリラも群れで生活できるように

園北側の奥にある「ゴリラ・トラの住む森」は、ズーストック計画によりニシゴリラとスマトラトラの繁殖を目指す施設として1996年に整備された。「ゴリラは群れで生活する動物です。そこで国内外の動物園から徐々に個体を移して増やし、野生のゴリラに近い群れづくりを行いました。2000年には当園としては初めてゴリラの繁殖に成功し、国内での繁殖基地としての一翼を担っています」。いまではスタンダードとなっている自然本来の環境に近い状態での飼育スタイルも、上野動物園が積極的に取り入れてきたのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB追加利下げは慎重に、金利「中立水準」に近づく

ビジネス

モルガンS、米株に強気予想 26年末のS&P500

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機「ラファール」100機取得へ 

ビジネス

アマゾン、3年ぶり米ドル建て社債発行 120億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 9
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 10
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中