最新記事
BOOKS

犯罪者の家族がこれほど非難されるのは日本ぐらい

2022年9月25日(日)12時35分
印南敦史(作家、書評家)

写真はイメージです wellphoto-iStock.

<例えば秋葉原無差別殺傷事件だと、犯人の父は引きこもり、母は精神科入院、弟は自殺している。加害者家族は「常識的な人」が多いというが、厳しい現実、難しい問題が横たわっている>

『「死刑になりたくて、他人を殺しました」――無差別殺傷犯の論理』(インベカヲリ著、イースト・プレス)は、通り魔や殺人犯などの犯罪加害者に寄り添い、彼らの気持ちを理解しようと尽力する人たちの声を集めたルポルタージュ。

秋葉原無差別殺傷事件(2008年)犯人の加藤智大の友人であった大友秀逸氏、宅間守(児童8人を刺殺した2001年の附属池田小事件)・宮崎勤(1988~89年の連続幼女誘拐殺人事件)らの精神鑑定士を勤めた長谷川博一氏、東京拘置所において死刑囚の教誨師として活動しているハビエル・ガラルダ氏、1968年に4人を射殺した連続殺人犯・永山則夫の元身柄引受人候補である市原みちえ氏など、登場する人物も多岐にわたっている。

そのため、加害者とはまったく異なる日常を送っている私たちは、この本から殺人犯たちの知られざる側面を知ることができる。

事件の性格や背後関係、犯罪加害者の思いなどは多様だが、そんな中で個人的にいちばん引き込まれたのは、第一章「加害者家族を救う人」であった。

単なる偶然なのだが、渋谷の神泉で中学3年生の少女が見ず知らずの母娘を背後からナイフで刺したという事件が、まさにこの章を読み始めたばかりのタイミングで起きたからだ。

報道を耳にしたとき、以下の文章が頭の中であの事件とつながってしまった。


 事件の容疑者が逮捕されると、当の本人は身柄を拘束され、世間からシャットアウトされた場所に身を置くことになる。一方、その家族は報道陣に囲まれ、親は辞職に追い込まれたり、子は退学させられ、引っ越しを余儀なくされたりなど、生活が一変してしまうことが多々ある。世間の非難を一身に浴びるのは、実は犯人ではなくその家族のほうなのだ。(6ページより)

少女は母親と、1歳年下の弟との3人暮らしだと聞いていた。そのせいか、「犯した罪が重ければ重いほど、その家族は追い詰められることになる」というフレーズが重くのしかかってきたのだ。

そこで今回は、この章をクローズアップして話を進めたい。

「日本は加害者家族がもっとも生きづらい国」

第一章で著者の質問に答えているのは、加害者家族をサポートするNPO法人、WorldOpenHeart理事長の阿部恭子氏。宮城県仙台市を拠点として2008年に活動を開始し、これまでに2000件以上のサポートを行ってきたという人物だ。全国の加害者家族からの相談を24時間対応で直接受けているというのだから驚かされる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米8月小売売上高0.6%増、3カ月連続増で予想上回

ビジネス

米8月製造業生産0.2%上昇、予想上回る 自動車・

ワールド

EU、新たな対ロ制裁提示延期へ トランプ政権要求に

ワールド

トランプ氏、「TikTok米事業に大型買い手」 詳
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 8
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中