最新記事
BOOKS

犯罪者の家族がこれほど非難されるのは日本ぐらい

2022年9月25日(日)12時35分
印南敦史(作家、書評家)

阿部氏によれば、日本はアメリカなどとは比較にならないほど犯罪が少ないそうだ。なのに事件報道が多く感じられるのは、なにか起きればマスコミなどの周囲が大騒ぎするからだという。


「アメリカはもう逮捕自体をパッとしちゃうので、別に逮捕されたことで、そんなに周りが引かない。でも日本で『逮捕されました』って言うと、驚くじゃないですか。『無罪推定』の概念はまったく働かない。そしてやはり犯罪が少ないだけに、加害者の周囲の人への差別が強いんですよね。犯罪者に対するアレルギーも強いし、それを生んだ家族に対する連帯責任の意識もものすごく強いの。たぶん、世界的に見て、もっとも加害者家族が生きづらい国ではないかと思っています」(7ページより)

確かにスラム街があったり、ギャングが横行しているような治安の悪い国では、犯罪件数と比例して加害者家族も多くなることになる。まわりが同じ境遇であれば、不当な扱いをされることも減るのかもしれない。

アメリカのギャングには結束の硬い"Hood(地元)"という概念があるが、もしかしたらそれが加害者家族にとっての一種のセーフティガードになっているのだろうか?

推測の域を超えないが、いずれにしても日本とは状況が異なっているようである。端的に言えば、日本の場合は"特別な人"が犯罪に手を染めるというわけではなさそうなのだ。


「(前略)私のところに相談に来るのは、本当に普通の生活をしていて、急に、って方がほとんどですよね。たとえば、(中略)殺人犯の父親が弁護士だった、となると『弁護士なのに、子どもは何をやっているんだ』となって仕事が続けられなくなる。実際にそれで自殺されているケースもあるんですよね。やはり社会的地位が高ければ高いほど失うものが多いんです」(8ページより)

この部分を読んだとき、また神泉の事件のことを思い出してしまった。少女の母親は保険会社で働いていたそうだが、やはり追い詰められることになってしまうのだろうか? 年下の弟は? 考えても仕方がないかもしれないが、つい気になってしまう。


たとえば二〇〇八年、秋葉原の交差点に二トントラックで突っ込み、通行人をダガーナイフで殺傷し、七人を殺害、十人に重軽傷を負わせた「秋葉原無差別殺傷事件」が起きた。その犯人である加藤智大の家族は、事件後に父は職場を追われて自宅に引きこもり状態となり、両親は離婚。母は精神を患い精神科へ入院、弟は自ら命を絶っている。(8ページより)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、一時150円台 米経済堅調

ワールド

イスラエル、ガザ人道財団へ3000万ドル拠出で合意

ワールド

パレスチナ国家承認は「2国家解決」協議の最終段階=

ワールド

トランプ氏、製薬17社に書簡 処方薬価格引き下げへ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中