最新記事

経済制裁

ロシア経済制裁の効力──企業による「自主制裁」が効いていたという結果

TRADING WITH THE ENEMY

2022年8月24日(水)13時49分
デービッド・ブレナン(本誌記者)

14年に西側諸国がクリミア併合に対して制裁を発動して以来、ロシアは輸入品の代替政策を推進。ベラルーシなどユーラシア経済同盟加盟国からの輸入と国内生産で穴を埋めようとした。ウクライナ侵攻を開始した翌日には、産業貿易省が「(輸入品の代替措置は)確立され、運用されている。あらゆる系統の代替品を調達できる」と声明を出した。

だがこの戦略は、特にテクノロジーと工業分野では成功していない。シンクタンクのGISリポーツ・オンラインによれば、ロシア経済は規模が小さく効率が悪いため、制裁で不足した物資を補うことができない。資本の流出も妨げとなり、調達できるのは「二流の代替品」だ。

西側企業なしでは生きられない

その影響はウクライナの戦場でも明らかだ。ロシアが誇る長距離精密兵器は外国製の部品に依存している。米国防総省のジョン・カービー報道官は5月の記者会見で、「プーチンが精密誘導兵器の部品を入手しにくくなっていることと、ロシアの国防産業が現状をカバーできない理由の一部は制裁にある」と語った。

英シンクタンクの王立統合軍事研究所(RUSI)も4月の報告書で、「部品の一部はロシアでも製造できるだろうが、コストが高くなり、信頼性は下がる可能性がある。ロシアの複雑な兵器の多くの部品は代替が利かない」と述べている。

ブリュッセルに拠点を置く政策シンクタンク「国際危機グループ(ICG)」のロシア担当シニアアナリスト、オレグ・イグナトフは次のように語る。

「ロシアは可能な限り制裁を回避しようとするだろう。14年の時と同じだ。彼らは西側の製品を通じて西側の技術に依存している。軍産複合体さえ、西側の技術に依存しているだろう。国内で全てを賄うことはできない......ロシア人の生活の質は下がるだろう」

イグナトフはさらにこう指摘する。「西側の企業なしで、彼らの製品なしで、どうやって生きていくのか。ロシアは現実を予測するのではなく、問題が起きてから反応する......西側はロシアなしでは生きていけないから制裁を見直すはずだと、彼らは今も信じている」

ロシアは化石燃料と食糧の輸出に関する経済的影響力を利用して、西側のウクライナ支援を弱体化させ、EUとNATO諸国に制裁を緩和させようと躍起になっている。

プーチンや政府高官は、迫りくる穀物危機を緩和する唯一の方法は、制裁を緩和することだと述べている。さらに、ヨーロッパはロシアの石油とガスへの依存をすぐには解決できないだろうという希望も抱いている。

実際、BDIのニーダーマルクは6月の民主主義サミットで、「電気のスイッチのように明日から突然、切り替えることはできない」と語った。

ロシア経済はあまりに大きく、彼らを世界市場から追い出せば悪影響は避けられない。「イランとは違う」と、イグナトフは言う。「ロシアのような国を世界経済から排除することは、大きな前例になるだろう。それが非常に難しいことはロシアも西側も理解している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、政府閉鎖中も政策判断可能 代替データ活用=

ワールド

米政府閉鎖の影響「想定より深刻」、再開後は速やかに

ビジネス

英中銀の12月利下げを予想、主要金融機関 利下げな

ビジネス

FRB、利下げは慎重に進める必要 中立金利に接近=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が語る「助かった人たちの行動」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中