最新記事

経済制裁

ロシア経済制裁の効力──企業による「自主制裁」が効いていたという結果

TRADING WITH THE ENEMY

2022年8月24日(水)13時49分
デービッド・ブレナン(本誌記者)

現在の犠牲は未来への投資

ブルームバーグの報道によれば、企業が自主的な制裁に予想以上に前向きなことは、米政府としても意外なようだ。記事の中でジャネット・イエレン米財務長官に近い匿名の情報源は、ロシアからの資本逃避が、アメリカのインフレ率が過去40年で最も高くなっている一因だと述べている。

米政権幹部からは、米企業がロシアから完全に撤退するのは間違いかもしれないという声さえ出ている。「アメリカのソフトパワーを(ロシアから)取り除くことが、本当にアメリカの望むことなのか」と、米国務省のジム・オブライエン制裁調整室長は言う。

「それは経済学者の無邪気さか、現実を知らない外交官の考えだ」と、エール大学経営大学院のソネンフェルドは言う。

「残ることは、影響力になるのではなく(相手の行為を)支持していることになる。ナチス・ドイツとの戦争が勃発した時、ロイヤル・ダッチ・シェル(現シェル)やテキサコ、チェース(・マンハッタン)銀行は現地から撤退を強いられた。もっとも、彼らは建設的な役割を果たしていたわけではない。戦争の苦しみから暴利を貪っていただけだ」

一方で、今の欧州の指導者は市民に対し、経済的な痛みを覚悟するように警告している。ロベルタ・メッツォラ欧州議会議長は民主主義サミットで本誌に次のように語った。

「ヨーロッパの一部の地域では、市民は極めて深刻な失業に直面しており、請求書の支払いもできず暖も取れない冬が迫っている」

「プーチンは世界をにらみつけ、こちらが目を伏せるのを待っている。しかし、私たちは目を伏せるわけにはいかない。現在の経済的犠牲は、私たちが、次の世代が、自由で民主的な世界で生きていくための投資なのだ」

ロシアと決別するという西側の決意を、世界が注視している。「独裁国家との取引に確実なものはないことを、私たちは今まさに痛感している」と、ニーダーマルクは民主主義サミットで語った。

特に中国は、ロシアより経済規模がはるかに大きく、西側と密接に関係しているため、例えば中国が台湾を侵略した場合、対中制裁は経済的に激しい反動を生む可能性がある。

「中国でも同じようなことになれば、私たちは誰のことも守れない」と、ニーダーマルクは言う。「経済は大混乱に陥るだろう。中国の原材料、加工原材料、レアアース、金属、中間製品、そしてもちろん消費財への依存度は非常に高いのだ」

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 27年6月適用開始=

ビジネス

米耐久財受注、10月は2.2%減に反転 コア資本財

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ビジネス

米GDP、第3四半期速報値は4.3%増 予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 6
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 7
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 8
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中