最新記事

ウクライナ戦争

残虐行為を目撃し、飢餓と恐怖に耐えた子供の心と体に「戦争後」に起きること

THE CHILDREN OF WAR

2022年8月20日(土)18時27分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)
ウクライナ難民の子供たち

ウクライナで戦火に追われた子供たち TOP TO BOTTOM, LEFT TO RIGHT: UNICEF/UN0646743, UNICEF/UN0615959/HROM, UNICEF/UN0642209/FILIPPOV, UNICEF/UN0642135/FILIPPOV, UNICEF/UN0642199/FILIPPOV, UNICEF/UN0646714

<安全な場所に逃れても口を開こうとせず、将来的な平均身長や生涯賃金にも影響を及ぼす「戦争」という体験。彼らの笑顔を取り戻すのに必要なケアとは>

なぜママたちと一緒におうちを出ることになったの? ユリア・ミチャエワの6歳の娘ソフィアはそう聞かれても答えようとしない。

普段は元気いっぱいの幼稚園児だ。お気に入りのキャラクターに扮して遊ぶのが大好きで、ロシアが祖国ウクライナに侵攻する2週間前にはバレエの発表会でキツネ役を演じたばかりだった。そんなソフィアも戦争の話となると黙り込み、自分がいる場で誰かがその話をすることも嫌がる。

母親のユリアは先日、2時間近くを割いて脱出までの凄絶な体験を本誌に語ってくれた。語り終えると彼女は逆に記者に質問した。

公園に友達の笑い声ではなく、近くに落ちたミサイルの爆発音が響いたら? 大切なぬいぐるみやオモチャばかりか、ガーフィールドという名の猫とサーシャという名の大好きなパパと別れて、祖国を出ることになったら?

それでもその子は大丈夫なの? 子供はどのくらい恐怖や悲しみに耐えられるものなの?

ユリアの問いに対する誠実な答えは、必ずしも彼女が、そしてウクライナの親たちが聞きたがるようなものではない。

長引く血なまぐさい紛争で家を追われた子供たち──ウクライナだけでなく南スーダン、イエメン、アフガニスタン、シリアなどの子供たちは、安全な場所に避難すればそれで安心とはいかない。

戦火を生き延びた人々に関する膨大な文献、古くは1944年にさかのぼる調査結果は、戦争が子供たちの心に深い傷を残すことを示している。

magSR20220819children-2.jpg

UNICEF/UN0615963/HROM

高齢になっても目に見えない傷に苦しむ

戦地で過ごす時間が長いほど、大人になってから病気になったり、メンタルの不調を抱える確率が高くなる。戦争は平均身長の低下や教育の中断を招き、高度な職業能力の習得を妨げ、生涯賃金を減少させかねない。

幼い日に戦争を体験した人は高齢になっても目に見えない傷に苦しみ続けることがあるのだ。

それなのに現実はどうか。NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の最新報告書によると、2020年に紛争地域で暮らす子供の数は過去20年で最多の4億5000万人以上に達した。世界の子供6人に1人の割合だ。しかも、これはロシアがウクライナに侵攻する前の数字である。

ウクライナの人口は4400万人。侵攻後数週間で、その3分の1、オランダの人口にほぼ匹敵する推定1500万人が難民となった。これは欧州大陸では過去75年余りで最大の数字で、その90%超が女性と子供だ。

ウクライナの子供の60%が家を追われたと、ユニセフ(国連児童基金)は推測している。国外に脱出した子供は200万人、国内に避難した子供は250万人に上るとみられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港紙創業者に懲役20年、国安法裁判 国際社会は強

ビジネス

中国の証取、優良上場企業のリファイナンス支援 審査

ビジネス

欧州、ユーロの国際的役割拡大に備えを=オーストリア

ワールド

キューバの燃料事情は「危機的」とロシア、米の締め付
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 4
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 8
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 9
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 10
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 9
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中