最新記事

動物愛護

「立て、立て!」猛暑のNYで倒れた馬車馬、なおもムチ打った御者に批判

2022年8月25日(木)16時50分
青葉やまと

馬車はセントラルパークの名物だが...... 活発化する廃止論

セントラルパーク周辺の大通りでは長年、観光客たちを引く馬車が人気となってきた。しかし、ニューヨークの象徴的な光景は、この事件をきっかけに終わりを迎えるかもしれない。動物へのあまりにも酷い仕打ちだとして非難が広がり、くすぶっていた馬車の廃止論が勢いを増している。

ニューヨークでは以前から、安全性と動物愛護の観点をもとに、馬車を電動式の客車で置き換える議論があった。市役所が近代化施策の一環として提案し、複数の市議会議員や動物愛護団体などが賛同している。

事件はこの動きに拍車をかけることとなった。米CBSは、馬は長年セントラルバーク一帯の象徴的な存在であったとしながらも、「しかし、それもまもなく終わりを迎えることになるかもしれない」と報じている。

馬車廃止の法案を提出したロバート・ホールデン諮問委員は、路上から馬を排除することによる安全上の利点を強調している。「ずっと前に終わっているべきことです。20年も前にやっておくべきだったのです」と氏は述べる。

法案を支持するほかの議員たちは、動物愛護の観点に注目しているようだ。酷暑の日などの「動物への残虐な扱い」を廃止し、「より人道的な方法」で産業を維持すべきだと訴えている。

組合側は虐待を否定

一方で馬車組合は、虐待はなかったとの立場を示している。組合の主張は、ライダーは過酷な稼働による熱中症ではなく、突発的な脳炎によって倒れたという内容だ。

NBCニューヨークは事件後、獣医による予備診断の結果として、小型動物のポッサムの糞を介して感染する脳炎の一種に感染していた可能性を報じた。事件当時、ライダーが別車線に移ろうとして曲がった際によろめいて倒れ、その後は脳炎の症状により立ち上がることが難しくなった可能性があるという。

しかし、動物愛護派や馬車廃止論を支持する人々は、この説明に冷ややかな視線を送っている。仮に酷使による熱中症ではなく脳炎が原因だったとしても、長期にわたり病気を放置したことで今回の事件に発展したと考えられるという。

愛護団体「アニマル・ウィットネス・アクション」のジム・キーン博士(獣医学)は、ニューヨーク・ポスト紙に対し、「ライダーは神経疾患の兆候や筋萎縮、そして体調不良などの症状を急性的にではなく慢性的に示しており、これは長期にわたる不適切な飼育、ひいては虐待の可能性があることを指し示す証拠です」と語っている。

ニューヨークでは17世紀から馬が街の一部となっており、馬車の廃止を惜しむ声も多い。路上に倒れた馬がもがき苦しむ衝撃的な映像が報じられるなか、街の伝統と動物福祉をめぐる議論が再燃しているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米特使がガザ訪問、援助活動を視察 「食料届ける計画

ビジネス

ドル・米株大幅安、雇用統計が予想下回る

ビジネス

米労働市場おおむね均衡、FRB金利据え置き決定に自

ビジネス

米7月雇用7.3万人増、予想以上に伸び鈍化 過去2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中