最新記事

軍事

台湾有事を一変させうる兵器「中国版HIMARS」とは何か

China's Version of HIMARS Could Be 'Game Changer' if Beijing Attacks Taiwan

2022年8月8日(月)21時15分
ゾーエ・ストロズースキ
HIMARS

ウクライナ戦争で使用されている米軍のHIMARS(高機動ロケット砲システム) Romeo Ranoco-REUTERS

<ウクライナ戦争で高く評価される高機動ロケット砲システム「ハイマース」と同等の兵器、「衛士」を中国が開発している。台湾全島を標的に1日に数千発を撃ち込むことも可能かもしれないが、どの程度の脅威になるのか>

「中国版HIMARS」とも呼ばれる、中国が開発した射程の長い多連装ロケットシステム(MLRS)が、台湾有事の際には「ゲームチェンジャー」となるかもしれない。戦況を一変させる可能性があるというわけだ。

HIMARS(高機動ロケット砲システム、ハイマース)と言えば、ロシアの侵攻を受けたウクライナにアメリカが供与し、活躍していることで知られる兵器。

米シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」でアジア地域へのアメリカの軍事的関与について研究する部門を率いるライル・ゴールドスタインは8月5日、台湾海峡で前日に発射された中国のMLRSとされる画像を投稿した。中国のテレビ局CCTV-7が報じたものだ。

ゴールドスタインは中国がアメリカのナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問に反発して台湾周辺で実施した軍事演習に触れ、「台湾上空を通過したミサイルほどショッキングではないかもしれないが、このシステムはゲームチェンジャーになりうる」とツイートした。

また彼は「これは経済的な火器だ。つまり台湾全島を標的に1日に数千発も発射できるということだ」とも述べた。

すると、香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストの特派員がゴールドスタインのツイートに返信する形で、これは「衛士」というMLRSであり、中国版HIMARSだと指摘した(編集部注:特派員のツイートはその後、非公開になった)。

HIMARSに匹敵する命中精度も?

アメリカのHIMARSはロシア軍に対するウクライナの反撃で大きな役割を果たしている。ウクライナは8月5日、1週間で10カ所を超えるロシアの侵攻地点にHIMARSを命中させたと明らかにした。

つまり中国版HIMARSとの呼び声がある衛士には、台湾有事の際には戦況に大きな影響を与える可能性があるということだ。

ただし専門家は、そうなるには一定の条件を満たす必要があるとも指摘している。

衛士は中国版HIMARSになりうるかと本誌が尋ねたところ、ゴールドスタインはそう思うと答えた。ゴールドスタインによれば双方のシステムはとても似ているが、肝心なのは命中精度でもあるとも彼は考えている。

ゴールドスタインはHIMARSについて「他のこの種の(ミサイル)システムのほとんどをおそらく凌駕する命中精度ゆえに大成功した」と考えている。

「(HIMARSの)精度が高い理由の1つはインテリジェンスだと思う」とゴールドスタインは言う。「要するに、望ましい配置はどこかについて非常によく検討されているのだ」

一方でゴールドスタインは、衛士も「巨大な情報システム」に支えられているはずで、HIMARSに負けず大化けする可能性があるとの見方を示した。また衛士には誘導システムが使われており、HIMARSに「匹敵する精度」を備えているかもしれないという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中