日本から中国に帰国したウイグル女性を待っていた「悪魔の命令」と「死の罠」

A DEATH TRAP

2022年7月22日(金)17時12分
アフメット・レテプ(日本ウイグル協会副会長)

220726p46_adt02.jpg

新疆公安ファイルに収められた「違法な押収物」 VICTIMS OF COMMUNISM MEMORIAL FOUNDATION

それから3カ月後の19年6月、ミヒライさんはほとんど誰にも相談せず日本から帰国してしまう。後から帰国を知った在日ウイグル人は誰もが心配し、止められなかったことに悔しい思いをした。

アブドゥエリ氏によると帰国の数カ月前から、ミヒライさんが彼に発信をやめるよう求めたことが何度もあった。母親から帰国を求められているとも明かしていた。母親を介して警察当局からの圧力が日に日に強くなっていたという。

帰国当日、飛行機が飛び立つ直前にミヒライさんがアブドゥエリ氏に電話をしていた。その時、こう言い残している。

「叔父さん、警察当局はお母さんを介して、あなたの発信をやめさせるよう私に圧力をかけ続けている。私には、あなたの発信をやめさせることはできない。どうすればいいのか分からない。私が帰るしかいない。さもないとお母さんも収容されるかもしれない。せめてお母さんだけでも無事でいてほしい。お父さんが無事なら生きている姿を、そうでなかったらお墓だけでも見たい......」

父親のことで絶望的な状態に陥った彼女は、人質状態の母親の言うとおりにするしかなかったのだろう。

「私が死んだら、赤いシャクヤクの花を墓に手向けて」。ミヒライさんが日本を飛び立つ直前に友人宛てのショートメッセージに残した最後の言葉だ。危険を感じながらも家族を失いたくない、自分の目で確かめたいという一心だったのだと思う。

伝えられたミヒライさんの死

21年1月、ミヒライさんが死亡したとの情報をつかんだと、アブドゥエリ氏が私たちに知らせてきた。私たちは耳を疑い、嘘であってほしいと自分たちに言い聞かせた。私を含む男性たちは、ミヒライさんと付き合いのある女性やミヒライさんの教え子たちにこの情報を伝える勇気がなかった。次第にこの情報がSNS上で広がり、多くの在日ウイグル人は、なぜ彼女の帰国を阻止できなかったのかと自分自身を責めた。

死亡が伝えられ、アメリカの短波ラジオ放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)がその真相を確かめようと精力的に動いたが容易ではなかった。死亡が伝えられてしばらくたった21年5月、多くの当局者が電話取材を拒否するなか、RFAはようやく警察当局者から情報を得ることに成功した。取材に答えた警察の話によると、ミヒライさんはカシュガルのヤンブラック再教育センターに入っていた。そして20年暮れ、取り調べ中に死亡した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ石油「封鎖」に当面注力 地上攻撃の可

ビジネス

午前の日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 値幅1

ビジネス

米当局が欠陥調査、テスラ「モデル3」の緊急ドアロッ

ワールド

米東部4州の知事、洋上風力発電事業停止の撤回求める
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中