日本から中国に帰国したウイグル女性を待っていた「悪魔の命令」と「死の罠」

A DEATH TRAP

2022年7月22日(金)17時12分
アフメット・レテプ(日本ウイグル協会副会長)

220726p46_UGL_01edit.jpg

ミヒライ・エリキンさん COURTESY TO AFUMETTO RETEPU

1990年にコナシェヘル県で知識人の家庭に生まれたミヒライさんは、名門の上海交通大学で植物バイオテクノロジーを専攻し、13年に卒業した。東トルキスタンの田舎町で育ちながら、あのような名門大学へ入学できるウイグル人は数えるほどしかない。在学中の夏休みは、毎年カシュガルにある塾で子供たちにウイグル語を教えていた。

その後、14年9月に留学のため来日し、17年まで東京大学大学院に在籍。修士学位を取得した。ミヒライさんはこの間、在日ウイグル人の子供たち向けのウイグル語教室で定期的にウイグル語を教えていた。中国政府によって消されているウイグル語を、日本でどう子供たちに残していくかという課題に悩まされていた親たちから頼りにされ、尊敬されていた。彼女の夢は、将来カシュガルで教育者になることだった。

修士課程の修了後、博士課程への進学を目指していたが、17年に彼女の人生を大きく左右する出来事が起きた。この年以降、東トルキスタン全土に広がった大規模強制収容だ。

大規模収容は一気に広がったが、外国に子供や親族がいる人たちはそれだけで収容対象にされた。とりわけ、私を含む多くの在日ウイグル人の家族が収容され、若い家族が収容所で死亡するケースも複数起きた。

17年に入ってから、ミヒライさんは県政府で公務員だった父親を含む複数の家族が断続的に収容されたことを知ることになる。

ミヒライさんの叔父で海外メディアの取材に積極的に応じているノルウェー在住のウイグル人著名作家アブドゥエリ・アユプ氏によると、ミヒライさんはアブドゥエリ氏の発信をやめさせるよう、母親を介して警察当局からの強い圧力にさらされていた。

心配と圧力で精神的に追い詰められる日々

家族の心配と警察からの圧力で精神的に追い詰められながら、1年間日本語学校に通った後、ミヒライさんは18年4月から奈良先端科学技術大学院大学で研究生として学び始めた。不安や悲しみに耐えながらも必死で前を向こうとしていたが、叔父の発信をやめさせる「任務」を遂行できない彼女に対し、中国の警察当局は母親を介して帰国するよう迫り始めた。

精神的に揺れる日々が続くなか、19年3月に東京都内の証言集会でミヒライさんはこう証言していた。

「お父さんと17年8月以降、一切の連絡が途絶えている。お父さんは私に地元でウイグル語を教える塾をつくってくれました。17年4月と12月にお父さんの妹2人が収容され、18年1月には、私の20歳のいとこが収容された。このほかにも、分かっているだけでも私の教え子10人以上が収容され行方不明となっている。家族と連絡が途絶えて2年になります。私は、家族全員がどこかで生きていると信じています。必ず生きた状態で会えると信じています」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中