最新記事

アメリカ社会

レイプで妊娠した10歳の中絶を禁じる州法に怒り

She's 10': Child Rape Victim's Abortion Denial Sparks Outrage on Twitter

2022年7月4日(月)14時53分
アンドリュー・スタントン

中絶の権利を覆した米最高裁判決に抗議するデモ(7月2日、パリ) Benoit Tessier-REUTERS

<中絶を憲法上の権利と認めた最高裁判決が覆り、一部の州で即刻、中絶禁止・規制が効力を発揮。少女のケースは、中絶禁止がもたらす破壊の大きさを示している>

妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年のロー対ウェイド判決が6月24日に連邦最高裁で覆されたことを受け、共和党主導の多くの州に中絶を禁止する動きが広がっている。そんななか、オハイオ州で10歳のレイプ被害者が中絶を拒否され、インターネット上で怒りの声が湧きあがっている。

インディアナポリス・スター紙の報道によれば、インディアナ州インディアナポリスの産婦人科医ケイトリン・バーナードは、最高裁の判決変更から3日後の6月27日、オハイオ州の児童虐待を専門とする医師からの電話を受けた。診療所に妊娠6週と3日の10歳の少女がいるが、州内では中絶が認められないという訴えだった。

オハイオ州では、胎児の心拍が検出される可能性のある妊娠6週以降の中絶が禁止されているため、この少女は中絶手術を受けることができなかった。共和党主導の一部の州は、妊娠6週で胎児の心拍が確認できると主張し、その時点から中絶を禁止している。

だが、こうしたいわゆる「胎児心拍」による中絶禁止は、医学の専門家から多くの批判があり、妊娠6週目には心拍は存在しないという声も多い。医師が検出できるのは、やがて心臓が形成される領域の拍動だ。さらに、多くの女性や少女はその時点で自分が妊娠していることに気づいていない。

強いられる妊娠継続

この少女は、中絶の制限・禁止を強化する州法の改正がまだ行われていないインディアナ州のバーナード医師のもとで手術を受けることができた。この件に関するその他の情報は、おそらく年齢を考慮したため、報道されていない。バーナード医師はスター紙に、「(いずれインディアナ州でも)中絶という医療行為を行うことができなくなることなど想像できない」と語った。

インディアナ州議会も現在、州独自の中絶規制の制定を進めている。中絶を希望する女性や少女は、手術を受けるために遠い州まで足を運ばざるをえなくなるかもしれない。

最高裁判決の変更を批判する人々は、この少女の状況は今回の最高裁判決がもたらす破壊的な影響を示しており、レイプの被害にあった幼い被害者たちが妊娠の継続を強いられる結果になると主張する。

多くの州で、最高裁判決が変更された場合に自動的に中絶を禁止する、いわゆるトリガー法を成立させていたため、すでにかなり広い範囲で中絶手術が禁止された。州議会で保守派が優勢な他の州でも中絶を禁止する動きがある。一方、民主党優勢の州では中絶の保護を強化している。

最高裁判決に批判的なノースカロライナ州のジョシュ・スタイン州司法長官(民主党)は、少女の中絶を禁止する法律を「正気とは思えない」と評した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中