最新記事

沖縄の論点

加熱する安保議論には、沖縄の人々をどう守るかという視点が欠けている

OKINAWA, VICTIM OF GEOGRAPHY

2022年6月24日(金)17時05分
シーラ・スミス(米外交問題評議会上級研究員)

2010年には尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺海域で、違法操業を行っていた中国漁船が海上保安庁の巡視船2隻に衝突し、日本と中国の政府が対立した。2012年に日本政府は尖閣諸島を個人所有者から購入して国有化。これに対し、中国政府は領有権を示すために海警局の船を配備し、両政府の法執行機関が同じ海域を管轄する形になっている。

こうして東シナ海は日中の直接的な軍備競争の最前線となった。中国が海軍のプレゼンスを高めるにつれて、自衛隊も沖縄県でのプレゼンスを高めている。注目は、東シナ海に最も近い離島の基地を拡充していることだ。

与那国島にレーダー基地を設置し、宮古島にミサイル部隊を配備するなど体制を強化して、石垣島でも陸上部隊を増強している。さらに、航空自衛隊は那覇基地に配備するF15戦闘機隊を1飛行隊増やし、海上自衛隊は南方海域の防衛強化を念頭に潜水艦を増強している。

日本とアメリカは今、日本の領海内外で拡大する中国の軍事的プレゼンスを抑止することに注力している。陸上自衛隊に新設された水陸機動団は、米海兵隊から多くの訓練や研修を受けており、南西諸島の防衛を念頭に入れた合同演習も重ねてきた。

その一方で、米国防総省は、中国が武力によって台湾併合を強行しようとした場合のオプションについて、さらなる検討を進めている。

台湾有事は朝鮮戦争のような限定戦争ではなく、アメリカと中国がぶつかる超大国間の戦争に発展する恐れがある。その場合、アメリカは沖縄の基地や軍事施設の使用について日本の協力を必要とするだけでなく、自衛隊に米軍の戦闘部隊を援護してもらう必要がある。

そのとき、沖縄ほど、こうしたパワーダイナミクスの犠牲になりやすい地域はない。

沖縄をどうやって守るのか

台湾危機が勃発すれば、その近さゆえに、沖縄の軍事基地は日米の対応の中心となるだろう。この平時から危機への態勢シフトには、沖縄住民の支持と協力が不可欠になる。

第2次大戦後のほとんどの間、日米同盟における沖縄の役割は、その地理的・戦略的重要性に基づき論じられてきた。その政策論議の中心を成したのは、米軍基地をどこに配置するかや、住民の不満(と怒り)にどう対処するかだった。基地へのアクセスと、寸断のない使用は絶対確保する必要があると考えられた。

住民の多くは、なぜこうした基地をまとめてどこか別の場所に移転できないのかと問い掛けてきた。冷戦が終結したときは、世界の緊張緩和による「平和の配当」が沖縄にももたらされることを期待した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ米大統領、中国と「公正な貿易協定」望むと表

ワールド

習近平氏、7─10日にロシア訪問 対独戦勝記念式典

ビジネス

トランプ米大統領、FRB議長は「堅物」と批判 解任

ワールド

米国外で製作の映画に100%関税、トランプ氏表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 7
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 8
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    「愛される人物」役で、母メグ・ライアン譲りの才能…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 9
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中